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SF・ファンタジー・ホラー

マスクエリア 第五覆面特区〜序章(1)

   

清水京一は、「特区」内で、中堅覆面レスラーとして、戦いに励む日々を送っていた。だが、いつも通りに進んでいくだったはずのその試合は、事前に打ち合わされた内容とは異なるものだった。

格闘ブームに沸く「特区」を舞台とした、格闘成分多めの小説です。

 

序章

「行くか」
 清水京一が、一声呟いて、入り口のゲートを潜ると、会場を埋め尽くす観客から、どっと歓声が上がった。熱気ではち切れそうというほどではないが、飽きてしまった様子の客もあまり見られない。メインイベントだというならともかく、全体の中盤、第六試合を観戦するテンションとしては、かなり高い部類に入る。ここまでの試合に満足してくれた証拠だ。
 清水は、薄い布で隠された表情が、思わず弛んでくるのを感じ、気合いを入れるため、自分の頬を数度、平手で打った。
(なかなか、いい感じではあるな。他特区からの客も多いし)
 清水は、鍛え抜かれた、何も着けていない上半身を誇示するように、リングまでの花道を、胸を張って歩きながら、ちらちらと観客席を見やった。
 千人収容できるかどうかの、小さな体育館ではあるが、ほとんど空席はない。客の年齢層も様々で、男女比率も五分五分に近い。中には、素人とは明らかに異なる緊張感を肉体にまとった、清水と同業の男たちや、他団体の興行主と見られる者たちもかなり大勢いる。体育館に据え付けられたオーロラビジョンには、清水と対戦相手の姿が映し出されていた。試合展開は、インターネット回線を介して、常時世界中に配信される手はずになっているのである。
 十年ほど前に、突如として巻き起こった空前の、ある識者に言わせれば絶後になるかも知れないとまで評される格闘技ブームは、様々な格闘システムや格闘興行の価値を、大いに高めることになった。
 清水たちの団体も、「格闘バブル」の影響を、良い意味で受けることになり、常時黒字経営化を達成した組織の一つである。
 五つの会場を根城に、年間五十試合というところが基本だが、稼ぎや試合回数が物足りないと感じる選手が、他団体の興行に参戦することも少なくなく、逆に全ての主催興業への参加が義務付けられているわけではない。清水のような兼業レスラーにとっては、最適な契約内容だった。

 

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