ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season18-4

   

 新たな来訪者が探偵社に現れた。

 出版社副編集長の土方が新刊の原稿コピーを手にしていた。読書好きで北萬治氏の愛読家でもある大地が読破することになった。

 近藤編集長が犯人の名を口にしたが、誘拐した北萬治と共にどこにいるのか見当もつかない。せめて大地が読み耽る新刊の内容からヒントがあれば、と信じるしかない。

 そんなとき雲田探偵が再び開口する。北萬治氏の誘拐から編集部の近藤のパソコンに脅迫メールが送られてくるまでの時間を逆式で計算し割り出そうとした。

 そして、まだ都内にいると言い切った。

 御影は現場で足取りを掴もうと提案するが、まさかの言い訳によって探偵数名がこれを拒みはじめる。小柴も無理強いできない。自分も当事者だったからだ。

 この季節、依頼と戦うのではなく花粉と戦う川上、森谷、雲田探偵だった。

 そこへ近藤編集長の携帯電話に連絡がはいった。犯人から新たなメールだった。

 事態は動きはじめた。

 

 氷室探偵社に佇む男が一人いる。その手には分厚い書籍を持っていた。

 扉をノックする音を御影たちはたしかに耳にした。

「どうやら来たようだ」近藤はすでにメールで到着したとわかっていた。

 水桐が近くにいたため扉を開くとそこに立っていた男性に、アヒル口みたいに尖らせた。「いらっしゃい。出版社の方ね?」

「はい、近藤さんはいますか?」

「ええ、いるわよ。あなたを待っていたわ」水桐は無駄に笑みを浮かべ秘書のような立ち振る舞いで訪問者を導いた。

「元ヤンキーが女をだしたよ」川上はくしゃみと同時に水桐を揶揄していた。

「土方か」

「はい」

 水桐の笑みはやはり無駄だった。「ちっ」舌打ちしたときに扉も同時に閉ざされた。

 小柴と近藤の向き合う間にテーブルがある。出版社名が入った白い封から北萬治氏の新刊原稿のコピーを土方は置いた。

「へぇ、それがまだ世に出ていない原稿?」水桐は覗くように見入っていた。必要以上に土方に寄り添っていた。

「はい、そうですね」大地がその間を割ってはいり、興味津々の目を輝かせ食い入るように原稿コピーを見ていた。好きな作家の新書、できれば手にとって活字を読みたい衝動に駆られている。

「読んでみますか?」近藤は大地を見ていた。心を覗かれているようで大地は胸を腕でおさえた。

「いえ、すみません…ファンなもので」大地は照れ笑いをした。

「大地さん、お願いします」小柴が許可を出した。「それで何か気づいた点があればおっしゃってください。ファン目線ではなく、探偵目線の推理を活用してください」

 そういうことか。てっきり読むのが面倒になってのことかと思った探偵諸君。だが、たしかに大地ほど抜擢な者はいない。

 御影も祖父が推理小説の作家でもあり、抜擢だと思うが探偵社でくすぶっているばあいではない。御影はすでに外出志望者で、うずうずしている。

「大地ちゃんよろしくね」水桐がウインクしエールを送った。

 大地はとんでもない使命を背負った。指先が震え北萬治氏の新刊原稿コピーを手にとった。

「わかりました。僭越ながらお役目まっとうします。いち探偵として恥じぬよう解き明かしてみせます」大地の顔が膨れた。やや興奮気味のようだ。

「大地ちゃん、落ち着いてね」水桐が鼓舞したというのに、この熱量にあてられていた。

 小柴は目頭を押さえていた。花粉の影響か、それとも大地の暴走に火をつけてしまったことの後悔か、もはや止まることはない。読書するだけだから能力の危機回避は発動しないだろうし、純粋に読者として新刊小説を読み耽ることになりそうな気配を全員が感じていた。

「それよか、誘拐された本人はどうなったんすか? それと会社のひとも捕まっているとか」御影は安否を気遣った。

「ええ、沖田という若い社員だが、やつの携帯電話を奪われて連絡手段として使っている。こちらからいくらメールや通話をしようと思っても音信不通、一方的になっている。用があれば向こうからとなっている」近藤は説明した。

「そもそもいつ沖田が捕まったのか不自然すぎるんですよね」土方がふて腐れるような顔でいった。「あいつはあすの打ち上げの場所も取っていないし、先日一人先にあがったけど、どこでなにをしていたのかわからない…」

「それはむりもない。目を離せば管理はできないものです。SNSでその日の活発な内容をブログとかで掲載しているならまだしも…俺たち探偵仲間や事務員だって職場を離れたらわからないものです」火守がその沖田を擁護した。

 全員がうなずいた。

「まぁ、そうですね。でも、どうにか逃げてくれればいいものを…」土方はうつむいていた。

 

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