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アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第7話「空はそれでも澄んでいた」

   

十歳だった王女は、十二歳になっていた。
カーネット王国の末路、そして自身の失った二年間を知り、エリザが歩む道は――。

「私はまだ、終われない…!」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編』
【毎週 金曜日に更新】

新章 第7話「空はそれでも澄んでいた」

 

 
 どうしてこんなにも、世界は残酷なのだろう。

「ッ――――!!!」
「! 待って、エリザちゃんッ!」

 私はスウェナが止めるのも聞かずに、部屋から飛び出した。必死で走る。思考も全てが止まった状態で、ただ胸の内に隠していた思いだけが悲鳴を上げていた。

 坂を下り、涙で汚れた顔のまま、ひたすらに走り続ける。

「ッ、どうしてッ、どうしてぇええええ!!!!!」

 声に出して叫んでも、変わらない疑問。

 どうして、こんなことになってしまったのだろうかと、今まで何度も考えた。だが、その度に辿り着く答えはいつも同じ。
 私がだから――――。
 何の力も持たず、抗えない、無力な人間。何故、どうして、と嘆く資格すら持ち合わせてはいないのだ。

「嘘ッ…嘘だああああッ!!!」

 どうしても信じられない。カーネット王国が――――私の生きてきた国が、もうこの世のどこにも存在しないだなんて。
 恨んだこともあった。だが、消えてほしくはなかったのだ。どうか、悪い冗談であってほしい。お祖父様が守ってきた王国が滅ぶだなんて、そんなことがあってはならない。母様が笑っていた場所が、父様が帰って来るべき場所が消えていいわけがないのだ。嫌だ。こんなのは嫌だ。

 目を閉じれば、浮かんでくる母様の顔。若くして王家に入り、私を産んで、体を壊した。幼い頃に亡くした母だが、それでも私はあの声を――――あの言葉を今でも覚えている。

「母様……お祖父様……こんなの、こんなの嫌だッ…!」

 たとえ、自分の生まれ育った国に追われても。たとえ、自国の兵に命を狙われても。それでも、私は――――あの国が愛しかった。
 私の体に流れる王族の血に、刷り込まれただけに過ぎない感情なのかもしれない。それでも、確かに胸の奥が疼くから。

 胸の辺りを押さえて、私は足を止めた。目の前に広がるのは、憎らしいほどに青い海と、優しいくらいに白い浜。

 私の気持ちなど、この海に比べればどれほど小さく、そして脆いのだろうか。

 私は、海の中へ崩れ落ちるようにして、飛び込んだ。

 バシャリッ――――!

「っ、は」

 波を掻きわけ、殴り、沈み、叩き、私はぼろぼろと泣き出した。幾ら言葉にしても消えてはくれない虚しさを、私は涙にして海へ溶かす。
 眩しいほどの青空を見上げて、私は彼の名を口にした。

「ルイス…」

 あの人にカーネット王国を継いでほしかった。緩やかな日々の中で、隣で笑っていたかった。ずっと一緒に、あの国で――――。

 愛した国も、愛した人も、私の手では掴めなかった。

 

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