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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season18-7

   

 御影たちは茂原の室内を調べ終えるとその部屋を後にした。マンションの前では水桐と川上が社用車で待っていた。

 収穫は北萬治氏の新刊原稿のコピーが発見されたのみ。これで誘拐犯は茂原で確定となるが、監禁場所へのヒントはなにひとつとしてない。

 今夜21時に都内三か所の大型書店で先行販売の予定を断念せざるを得ない状況まで迫っていた。

 あすには全国の書店で販売する予定もおそらく中止となる。

 土方が現状を説明するが重役と近藤編集長は販売の中止を全国の書店に報告することになるだろう。そのことで落胆していた。

 そんなとき御影の目には何かが見えた。

 この事件の“動機”。

 伯田警部補は動機は明確だと反論した。要は暴露本だ。御影以外の探偵も伯田の主張に異論はない。

 御影は自分の直感を信じている。御影にしかみえないものが一瞬、眼前を通り過ぎたような違和感を感じとった。それが拭えない。

 その心眼は名探偵氷室のようだ、と水桐、川上はほくそ笑んでいた。
 
 

 重役と近藤は利益かそれとも北萬治の命か、一番不利益にならない得策を模索していた。

 しかし、政木警部は指摘した。ひとの命が優先だと。

 罵り合う時間が逗留している。あすには北萬治の命が消え失せるかもしれないというのに。

 

 十条のマンションから出てきた御影たち。下にはちょうど水桐と川上が車を止めて出てきたところだった。

「二人ともどうしたんですか?」御影は胸が弾んでいた。

「探偵が調査依頼を受けているのに問題でもあるのか?」川上がいった。

「いえ、体調は?」

「問題はないへっくしょん」川上は花粉と戦いながら、意地を見せた。

「そういうことよ、御影くん。私たちもその気になっているわけよ」水桐が微笑んでいた。

「そうですか、それはよかった。でも収穫はなしです。室内から北萬治氏の新刊のコピー原稿が発見されて誘拐犯は茂原ということが確定した。それだけです。監禁場所になるヒントはなかった。あとは大地さんにかかってますね」

「ひとつずつ潰していくしかないだろ。手探り状態だからな」川上は御影を励ました。

 認めるように御影はうなずいて勇気が湧いていた。未熟さを実感していたのだろう。仲間がいるとは本当に心強い。

「出版社には火守さんと森谷さんが向かっている。情報収集が最優先だからって」水桐がいった。

「たしかに…」御影ははっとひらめいた。「そういえば土方さん、北萬治先生の新刊は今日の何時に発売予定だったんですか?」

「え?」土方は思いがけない問いに戸惑った。「本当はさらに明日なんですよ。でも、今夜21時に都内の三か所の大型書店で先行販売する予定でした」

「それを断念したわけですね」黒川刑事が代わっていった。

「延期になったとしても、そのことをまだ公表していないですよね?」伯田警部補は確認した。増えた探偵のことは気にもとめてないようすだった。「どうするつもりですか」

「犯人にはメールで報告することになってます。社員の沖田も捕まっている。連絡手段は沖田の携帯になってますが販売の中止になったことを伝えることになってます。近藤さんが会社近くの貸し会議室で重役と相談してます。もっとも延期というより中止になったことをメディアを通して呼びかけることになってます。全国の書店さんにも販売中止を報告します。今ごろ大変なことになってますね。必要最低限の編集担当者をそろえて斎藤チーフが手配してますよ」土方が肩を落としながらいった。

「まさか…」御影は何かひらめきかけようとしていた。

「どうした?」川上が御影の異変に気付いた。

「いえ、まだはっきりとは…でも動機がいま見えたような気がしてならないんです」

「動機?」

「動機は茂原が犯罪をしたことのノンフィクションとして暴露本を出されたことの抑止だ。そのための誘拐事件、動機ははっきりしている」伯田警部補が明確にいった。

 誰も異論はない。これが真実の捜査で動いているメンバーだろう。

 それを否定しているのか、なにかしっくりこないのか、御影は悩んでいた。

「まだわからない。ピースが足りない…」

「氷室名探偵みたいなことをいうな」伯田警部補がいった。

 水桐と川上は、御影の雰囲気にいつになく違和感を抱いていた。

「少しだけ気迫が増している。いつのまにか探偵らしくなっているじゃないか。へっくしょん」川上の充血した眼で見定めていた。

 伯田警部補の携帯電話に政木警部から連絡が入った。

「はい、出版社に爆弾がみつからない。そうですか、こちらも監禁場所につながる手がかりはなにも…はい、わかりました」

 通話を切った伯田は出版社付近の待機場所で合流することを命じられた。

「探偵さんたちもどうかな?」伯田警部補はやや得意げに誘った。

「もとよりそうするつもりです。火守さんたちもいるんですからね」御影は川上の顔を見た。マスクで覆われて表情はわからないが、花粉にやられて辛そうなのが一目瞭然だった。

「なら、はやく行こう、建物の中にいる方が若干花粉から身を護れる」川上はくしゃみを連発していた。

「やはり解き明かすには新刊の本しかない」土方がぼそっといった。

「そうですね、大地さんがいまは頼りだ」御影は九段下の方角の空を見つめていた。

 

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