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SF・ファンタジー・ホラー

透明の世界 3話「夢見の海」

   

短編集「透明の世界」

第3話「夢見の海」

――――恋と、海に溺れる。

 

 
 俺はいつも、溺れる感覚で目を覚ます。

 底深い闇に沈んでいく体と重くなっていく四肢。限界まで圧迫される眼球とふやけていく指先。それ等全てが死を予感させる中で、この悪夢が早く終わることを願いながら、俺は酸素を求めてもがく。

 これは、夢だ。所詮、俺を殺せはしない。

 ――――だが、死ねない苦痛というものは、とても苦しく、恐ろしい。

「ッ! ハアッ…! ガッ、ア」

 今日も今日とてそれは変わらず、喉を掻きむしり目覚めた俺は、全身を襲う倦怠感に頭を抱えた。学生時代、水泳の授業後に感じていた、あの怠さとよく似ている。思わず体が濡れていないかを確かめてしまうほどだ。だが、俺の期待とは反し、しっとりと寝汗をかいているだけの首筋に苛立ちを覚え、爪を立てる。

 ――――ああ……どうして俺は

 浮かんだ思考に続いて、見開いた瞳があるべき場所に収まっているかどうかを確認すると、俺はとうとう大声で叫んだ。そんなことをすればまた、近所に住む人間達にひそひそと噂をされるとわかっていながら、我慢することが出来なかった。

 ――――どうして俺は、沈めないのだろうか

 目覚めた瞬間のあの絶望に、あっという間に脳を支配された。

 溺れていく感覚から俺を救うもの。その唯一の救いは、『死』だ。それなのに、今日も俺は生きている。やっとこの地獄から解放されたと思っていたのに、やっと死ねると思っていたのにだ。
 あれほどの苦痛をまた今夜、眠った後に与えられる。そう思うだけで、身震いが止まらなかった。
 

***

 

「……酷い顔だな。きたねぇ……」

 あの夢の中で俺は、呼吸の必要性を意識することも出来ずに、虚ろな本能だけが酸素を求めていた。
 その耐え難い苦しみと肺の痛みで、涙と唾液にまみれた顔を、洗面所の鏡越しに見つめると、笑う。痙攣する頬と、三日月を描く瞳が鏡には映っていた。

 冷たい水で洗い流した後の顔を見ても、俺は笑ったままだった。

「ハハッ…ハッ…」

 せっかく顔を洗ったばかりだというのに、再び涙で濡れた頬を見て、俺は消え入るように呟いた。

「――――どうしようもないな、俺」

 蛇口から流れ続ける水を見て、憧れとも言える感情が沸き上がってくる。

 この水に溺れ、意識を失えるのならば、俺は何だって出来る。

 蛇口をきつく閉めて、水の流れを止めた。そして、テレビの前を通り過ぎ、導かれるようにして歩みを進めていく。寝室のすぐ隣の部屋へ足を踏み入れると、電気も点けずに座り込んだ。

 暗闇の中、点滅を続ける明かりだけが、俺の周りを照らしている。僅かに聞こえてくるのは、俺の浅い呼吸音と
 

 

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