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SF・ファンタジー・ホラー

マスクエリア 第五覆面特区〜序章(2)

   

社長の高倉に呼ばれた清水は、不可解な予定変更の理由を知るために、会社が所有するビルに赴く。しかし、社長室兼会議場には、他団体のプロモーターたちが詰めかけていた。原因は不明ながら、全く明確な形で、中小格闘団体の興行収入が致命的なほどに落ち込んでいることを高倉から知らされた清水と葛西は、同時に、予定変更の意外な真相と、自分たちに対する、抗いようのない事情による厳しい処分を告げられることになる。

 

 再開発に失敗した、半ばスラム化した区画の、更に裏手のビル群の中でも、一際レトロな四階建てのビルが、清水の所属する高倉格闘事務所の本拠地だ。
 この「特区」で、いっぱしの団体として認められるには、一階にリングを始めとするトレーニング設備を設置し、二階に選手寮を設ける位のことはする必要がある。だからこそ、多くの団体は、地価が最も安い部類の区画の古いビルを選び、時にはローンを組んででも、自社ビルの体裁を整えようとするのだ。
 一見華やかな格闘技ブームだが、ピラミッドの中腹より下の興行団体は、ちょっとした違いはあっても、大方楽とは言えない経営状況のもと、日々を戦っている。
「それじゃ、お疲れ」
 清水は、新人や若手たちに声をかけつつ、エレベーターに乗り込んだ。彼以外、誰も使おうとはしない。鍛錬の一環として、原則として階段を使うべし、との規則を、若手たちは律儀にも守っているのである。
(現場は頑張ってるのに、上がこれじゃあよ)
 古びた最上階行きのボタンを押したことを合図に、清水の心で、おさまりかけていた感情が再び熱を持ち出した。それこそ、顔を合わすまでもなく、ポケットに入っている携帯電話で、社長をどやしつけてやりたい気分になってくる。
 あの急な予定変更は何のマネだ、格闘系路線の香西に椅子まで使わせて、今後の収拾をどう付けるつもりなのか。あそこでミスったから、メインが盛り上がらなかったんだぞ。というような、激しい調子の言葉が、頭の中をぐるぐると回っている。レスラー的な演出としてならともかく、三十路に達した社会人が上司に向かって言っていいセリフではないのだが、昔から距離が近いだけに、どうしても最低限の礼儀を忘れてしまいがちになる。

 

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