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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season18-9

   

 目黒区内で一人取り残った御影。茂原に関する何かを拾い集めるように聞きこみをすることを命じられたが、何一つ見つからない。

 そこにマルチーズ犬が御影に飛びついてきた。驚いた御影は後方へと腰を落とす。

 飼い主の陽気なご婦人が現れた。御影はその年輩の女性に訊ねた。茂原という一家について、しかし当然のようにしらないと。

 ついでにもう一つの質問を訊ねた。

「この辺で一家惨殺事件なんて昔ありましたか?」

 明らかに表情を一変させた。心当たりがあります、だが訊ねないで、といっている顔だった。

 知っている、と。さらに驚愕なことを教えてもらった御影は、今回の一連の事件の全貌へと踏み入れた。
 
 

 夕方の報道番組で、ついに作家の北萬治氏が誘拐されたことをアナウンサーが伝えていた。

 印刷会社を爆破したこと、その裏に新刊が発売中止をとなったこと、平城出版社に脅迫メールを送って、現在運営がストップしていることが露見した。

 犯人からの警告だ。

“野原に咲く花は実は穢れている”。

 北萬治氏の新刊タイトルが流れた。販売時刻も迫っていた。結論が迫られている重役と近藤編集長。

 もはや一刻の猶予もない。

 

 御影は近所を散歩していた。何一つ手がかりがあるはずもなく、小石を拾い集めるようなものだ。

「散歩気分で探すしかないよな、こういうのって川上探偵が好きなんだけどな…猫だし」

 ふて腐れたように通りすがりの人にむやみに声をかけて聴取をとるが、成果は当然ゼロ。

「てかここどこだ?」すでに途方に暮れていた。どこをどう歩いていたかさえわからなくなっていた。

 散歩をしていた犬が、興味本位で御影に飛びついてきたことを除けばだ。

「うおおぅお」唐突なことで驚いて尻もちをついた。

「ごめんなさいね。番犬に飼ったのに、人懐っこい子でね」

 御影はふざけるな、と言いたかった。「マルチーズが番犬ですか?」

「かわいいでしょ、ほーほっほっほっほっほ」陽気なご婦人に調子が狂う。外見だけで年輩なのがわかる。

 こんなちっこいモノに御影は退かされたかと思うと羞恥心に晒されたようでむかついていた。

「そうだ、この辺に昔、もうかなり前ですけど茂原という一家が住んでいたんですが、なにかしりませんか?」

「さぁ、茂原…聞いたこともないわね」

 当然の反応だった。御影は半ばあきらめかけていた。

 雲田探偵の情報はあまり役に立たないだろうと思った。だが、もののついでにそれを訊ねてみる。御影なりの興味本位だ。

「この辺で一家惨殺事件なんて昔ありましたか?」

 おばさんの顔が一変した。マルチーズは御影を土台にするように動き回っていた。

「なんでそんなことを?」

 聞き返されるとは思ってもみなかった。それはつまり心当たりがあるということだ。黙ることは核心に比例する。差し当たりない感じの雰囲気を露わにする。その態度が秘密を知る者の閉ざされた口を開口する。「さぁ、上司が調べてるので手伝いを」

「刑事さんなの?」

「いえ、探偵です。でもいま刑事と一緒に捜査をしてます。隣町あたりを足を使って聞きこみしてますよ、あの人らも」

 御影は気楽にいった。今ではあぐらをかいてマルチーズを抱きかかえて頭を撫でていた。

「…」おばさんはそんな御影のお気楽な態度とうって変わって凍り付いたように顔が固まっていた。朗らかな印象のおばさんはどこへやら。

「どうしました?」

「昔、一家惨殺事件はありました。すぐそこです。そして私はその犯人を知っている」

「えっ? でも犯人はまだ捕まっていない」まさかの返答だった。

「そうです」

「そのこと警察には?」

「いえ、でも一人の作家には言いました。半年も前でしたが…」

「作家?」御影はそこでひらめいた。「まさかその作家って」

 おばさんは不思議そうに御影を見つめていた。名前もまだいっていないのに当てがある。

「北萬治先生ですか?」

 おばさんは目を見開いた。「あらやだ、そうよ。どうしてわかったの?」

 世間ではまだ北萬治が誘拐されて大ごとになっているとは知る由もない。このおばさんはどういうつもりで作家に話したのだろうか。奇遇たる遭遇は事件解決へと歩みを運ぶ。

「すみません、詳しく話を伺っていいですか」御影は瞳を輝かせ見開いていた。

 真相を解読する追い風が、御影に吹いていた。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
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