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ノープロブレムフォン

   

うだつの上がらない発明家 八代 密(やしろ ひそか)は、気分転換にと久しぶりに入った裏山で、煙を噴いているUFOを発見する。

火を消し、中の人を助け出すと、宇宙から来たというその人は大喜びし、感謝と友情の証として、大型の携帯電話を差し出してきた。

その端末を経由して「彼」に悩みを話せばすぐさま解決に全力を注いでくれるという。

そして「彼ら」の科学技術のレベルからすれば、平凡な地球人である八代が抱えるような悩みで解決できないことは皆無だとも言ってきた。

実際、八代が自動車による事故と水不足を、八代の手柄になる形で解決して欲しいと電話を通じて頼むと、すぐさま膨大な量のアイディアが頭に浮かんできた。

あり合わせの道具で装置を完成させた八代はすぐさま、世界中からの注目と賞賛を集めることとなった。そして、自分が欲し、周りから求められるがままに電話をかけ、地球上における様々な課題をクリアするだけの物品を発明していったのだが……

 

「むうう、やっぱり何も思いつかんか……」
 八代 密は、ふうふうと息を切らしながら歩を進めていた。
 特に山道が急だというわけではない。
 八代自身、長らく入っていなかったから大分荒れてはいるが、あくまで親族が所有する裏山であり、息が切れることは、彼が机の前に座ったきりの生活を送り続けていることの証明でもあった。
 朝から晩まですっかり古くなったパソコンの前に座り、ろくに姿勢を変えないまま三度の食事を済ませてしまう日も少なくないほどだ。
 しかし、単純なデスクワーカーというわけでもない。
 八代は、「発明家」と称される部類の人間だった。
 大学や企業の研究室に入るわけではなく、新しい道具や機械、ノウハウなどの完成を目指してコツコツと仕事を続ける、在野の発明家である。
 大学院を出てから十五年あまり、時には助手を雇うこともあったが、ほとんど一人で研究テーマに向かい続けてきた。
 長年の積み重ねが功を奏しているのか、既に取得した特許や実用新案の類は三十を超え、出願中のものもいくつかある。
 だが、そうした結果を経てなお、八代の生活は極めて苦しかった。
 特許や新案を取っても、それが製品となるか、さらには製品が売れるかどうかというのはまったくの別問題であり、残念ながら八代の得意分野は、売れないフィールドに集中しているようだった。
 特に最近は世間の研究所が大きくなったことや多くの分野が研究を尽くされてしまっていることなどが重なり、いっそう収入には結びつかなくなっているようだった。
 今日にしても、「もっと安全で楽しい遊具を作る」という課題を解決する糸口すら見い出せず、普段絶対に立ち入らないような裏山に、気分転換をしに来ているのだ。
「ダメかな……」
 口から出ていた息に憂いの感情が混ざる。
 確かに野山は発見の宝庫だとは聞くが、根っからのインドア気質である八代は、そこからきっかけを得られるほど感性が磨かれてはいなかったし、そもそも今は夜が迫る時間帯である。
 幸い道は記憶しているから野宿の心配はないが、かと言って日をまたいで探索するほどのモチベーションがあるわけでもない。
 これなら、倉庫に眠っている試作品を使っての「営業」電話でもかけていた方がマシだったかな、と思ったその時、小高くなっている「山頂」の方から、もうもうと煙が立ち上ぼるのが見えた。
 真っ黒く量が多く、妙にすすけた感じもある。近所の子供や若者がふざけて焚き火をしているのとは明らかに違う嫌な感じを有する煙だった。
「な、何だ……っ!!」
 八代は慌てながら走り出した。幸いというべきか、裏山の各所には防火用水が設置されている上、発明に役立ちそうな原料を運ぶためのキャスターを持ち込んでもいたため、二十キロほどの水を途中で調達することができた。
 小石に足を取られてよろけたりはしたが、どうしかこぼすこともなく山頂までたどり着いた八代が見たのは、想像よりもハードな光景だった。
「ぬうう、ぬううう……っ」
「うわわっ! た、大変だっ!!」
 漫画や映画などの中などでしか見たことがない、円盤型のUFOが黒煙を発し、中から呻きとも叫びともつかない声が漏れ出ていたのである。
 現実的ではない状況だが、誰か、いや、「何か」が助けを求めていることだけは確かだった。
 八代は用水のフタを開いて水を頭から被ると、姿勢を低くしてUFOの中に駆け込んでいった。
 いくつかの実験で爆発めいた小事故を実際に経験していたのが、今日に限って言えばプラスに働いた形となった。
 足がすくまずに済んだおかげで、結果として自分自身と「彼」の命が守られたのである。
「うううーっ、ぬうううっ」
 入り込んだ機体の中、恐らく操縦席と思われる部分の近くで「彼」は、紫色の顔を紅潮させて唸っていた。
 いくつかの機材に手足が挟まれ、身動きが取れなくなってしまっているようだ。
 このままでは間違いなく焼死してしまうだろう。
「大丈夫か!!」
 八代はここ数年発したことがないレベルの怒声を上げつつ、「彼」を下敷きにしている何かに手をかけた。
 残骸はその図体の割には驚くほど軽かった。発泡スチロールで精巧に作られた銅像のレプリカを思わず想像してしまったほどである。
 と、なれば、八代は一つ一つゆっくり左右に動かす必要などなく、乱雑に払いのけてやるだけで「彼」は身動きが取れるようになった。
「身を預けていろっ」
 八代はほとんど反射的に「彼」を抱えながら、機体の外の安全地帯に駆け込んだ。
「彼」の体もまた恐ろしく軽く、しかし確かな骨格に支えられているようだった。
 もっとも、救出者の体重などよりも、消火に当たる方が無論、先決である。

 

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