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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season18-10

   

 犯人の茂原 数道は監禁した北萬治と対座し、緊迫感の中テレビの報道をみていた。

 北萬治は茂原に自首するよう促す。

 笑ってそれを吹き飛ばし、まだまだ追い込まれている実感はない。むしろ好手を打っていると茂原はいっている。

 新作のノンフィクション小説の内容を編集部で読まれて、人物名に驚愕した。茂原と同姓同名だった。そのせいで編集長から疑いをかけられた。結局笑い話で終わったが、茂原の心には日に日に棘が少しずつめり込んでいった。

 茂原のプランを北萬治に聞かせた。まるで辞世の句のように。

 二人は文学的な対話、いや口論をはじめてしまう。挑発的に茂原を北萬治は言葉を重ねる。その諍いは北萬治の頬を拳で殴り飛ばすことで終わった。
 
 

 21時が過ぎた。

 平城出版社について新たな報道が流れた。偶然、御影は地下鉄の車内液晶モニターでその情報を知った。

 御影の感じていた違和感の正体を垣間見た瞬間でもあった。

「根本的にまちがっていた…」と悟った。

 すると火守からメールが届いた。監禁場所が、わかった。御影は驚いた。事件の核心を握りしめていた。あとは攻めの一手だった。

 御影たちは、今度はこちらからしかける番だと立ち上がる。

 

 茂原 数道(もばら かずみち 29歳)は監禁場所で北萬治と対座している。

「テレビ局はしっかりと伝えてくれる。こういう餌を撒くと真剣な顔で原稿を読み上げているんだろうけど、裏ではスクープだと思って鼓舞するように沸いているんだろうな…、ねっ、先生…」

 傍らに15インチほどの液晶テレビを持ち込んで外部情報を得ていた。

 倉庫から出るまで携帯電話の位置情報がバレてしまう。北萬治か沖田の携帯の電波をだ。

 最初に送られてきた画像は茂原の携帯だった。しかも周囲に教えている携帯ではない。もう一つ入手していた誰も知られていない携帯電話だ。それで撮影し、メールを沖田の携帯に送った。

 監禁場所から離れて電源を入れて送信した。裏工作はこうして完遂している。

「そうかね、だが…きみは自ら追い込まれている。逃げられるものではない。罪がこれ以上重くならないように自首したまえ」北萬治はまだ正気を保っている。

「あなはは、自首を薦めるとはおそれいる。まさか北萬治氏の作品の主役で登場しているんだからね。驚いたよ、地道に出版社で派遣社員として編集部の内勤作業を手伝っていたときに読む機会があった…まさかそれが過去のことを模写しているとは…、真実を8割取りいれたノンフィクション…編集長にも疑われた。これおまえじゃないのかってね」茂原はご満悦だった。

 近藤の驚いた顔や冷やかすときの顔は想像もできない。たまにそういう無邪気な茶目っ気を出す大人だ。

「もっともすぐに笑い話で終わったけど…疑いはかかったままだ。チクリと胸に刺さった棘は日に日にめり込んでいく。誰にも知られずにだ。改心して普通に地道に自分の道を歩もうとしているだけだ。どうして邪魔をする?」茂原は胸に手を当てた。

「私はそんなつもりはない。しかし過去の過ちについてしっかりと償うべきだ」

 茂原はその訴えを無視した。

 北萬治は若者の犯行について確かめるようにひとつ質問をした。「印刷会社を事故にみせかけて爆破したのはきみなのか?」

「そうですよ」茂原は当然だといわんばかりな余裕の笑みを浮かべた。

「なんてことを…」

「すべてあなたのせいだ。入稿された新刊が今夜21時に初回特別販売を新宿、渋谷、池袋の大型書店で販売する。それをどうしても制圧しなければならない。それができても、あすには全国の書店に平置きにされる。そしたら過去の罪が明るみになる」

「それを認めなさい。一生隠していきていけるはずもない」

「大丈夫だよ。プランはパーフェクト」茂原は無邪気な笑みをみせた。

 北萬治はそのプランを予測できている。「きみは普段、ミステリー小説を読んでいそうだな」

「そうだ。それがどうした…だから頭はキレキレだ。あなたのみえすいたトリックなんて見破るのに前半だけ読めば結論はみえてしまう。いつも最後まで読んだためしはないんですよ」揶揄するように他人の才能を罵倒する茂原だった。

「私には才能はない。偉大な推理小説家の江戸川 しょうらん氏をこよなく尊敬している。私の作品は世に出たものは称賛されているが、実際はすでに才能は枯渇している。だから今回のようにノンフィクションで描き話題を勝ち得ようとした」

 北萬治は御影の祖父の作品のファンであった。

「天才気取りはもうおしまいだ」茂原はゆっくりと歩みを近づけて眉を吊り上げながら罵った。

 北萬治は続ける。「天才は盗むものだ。おまえの体験をアイデアとして盗ませてもらった。だが盗作ではない。そういう見せ方をしている。それが作家としての腕の見せ所だ」

「そのせいで他人の怒りを買った。惨めな結末だったな先生」茂原は嘲笑した。

「きみのいう結末とは?」北萬治は険しい顔のまま睨みつけていた。

「鋭く聞いてくるね。いいだろう、どうせ終わりだ、あなたの命は…出版社もボンッ、そしてここもボンッ、となってあなたは消し飛ぶ」

 高笑いをする茂原を北萬治は奥歯を噛みしめるだけだった。

「それが“野原に咲く花は実は穢れている”か、まったく頭にくるタイトルだ」

「ぴったりだと思うがな」北萬治はメンチを切りながら茂原を見る。

 茂原はその眼光に耐えきれなくなったのか、北萬治の頬を拳で殴り飛ばした。

 

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