アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第10話「亡国の出身」

ピアズとマイルが亡国出身者だと知り、エリザはまた思い詰める。

「思えば、私はあの花の名前すら知らないのだ」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編』
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新章 第10話「亡国の出身」

 

 
「シアン…もしかしてさぁ? ヤキモチ妬いてんの?」

 マイルがにやけながらそう言うと、キールが瞬く間に顔を赤らめて、わなわなと震え始めた。これはまずい。

「ち、違うよ」
「普段クールぶってこれかよ」
「だから! 違うって言ってるだろっ」

 ピアズまでもがからかい始めてしまった。私は呆れ顔で溜め息を吐くと、今にも二人に掴みかかりそうな勢いのキールを止めた。後ろからキールを抱き締めるようにして、引き離す。

「だめよ、二人共。からかわないの」
「エ、エリザ…」
「ねえ、私、お花を摘みに行きたいのだけれど、よかったら案内をしてくれない?」
「! いいよ!」
「…まー、いいけど」

 私のお願いに揚々と返事をしてくれたマイルと、ぶっきらぼうに返したピアズ。どちらも根はよい子なのだろう。
 未だに恥ずかしそうにしているキールの手を取り、私は彼に微笑みかける。

「キールは、私の家族なんでしょう?」
「……うん」
「それが恥ずかしいの?」
「違うよ…そうじゃなくて…」

 何かを言いかけたまま、口を閉ざしたキールを見かねて、マイルが動く。

「なぁ! もう行こうぜ! 朝の内に摘んだ方がいいだろ!?」
「そうね」
「じゃ、案内してあげるよ」
「ありがとう、ピアズ」

 先を歩き始めたマイルとピアズの後ろについて行こうとしたその時。小さな手が、私の服の裾を掴んだ。

「! キール…? どうかしたの?」
「……その、さ……――――姉ちゃんって呼んでもいいかなっ!」
「へっ…?」

 顔を再び赤らめた彼に、私は心の中で首を傾げた。

 ――――『姉ちゃん』。誰かにそんな風に呼ばれるのは、初めてのことだった。どう言葉を返したらよいのだろうか。

「……だめ?」

 私が言葉に悩んでいると、キールが不安そうな顔で見上げてきた。

 キールにはまだ、シアンのことを言えていない。それなのに、姉と呼ばれてもよいのだろうかと一瞬悩んだが、最早答えは決まっていた。
 こんなにも顔を赤らめて、手はじんわりと汗ばんでいる。きっと、勇気を出してくれたに違いない。

 
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