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歴史・時代

東京探偵小町 第五話「消えた猫」 <2>

   

「あんな跳ねっ返りのどこがいいんだか知らねェけど、あんたがうちの大将にぞっこん惚れてンのは、はなっから承知だぜ?」
「そそそそんな、惚れるだなんて!」

小説版『東京探偵小町
第二部 ―夜会編―

Illustration:Dite

 

「ふふ。あのかた、きっと時枝さまをお見送りしているつもりなのですわ」
 そっと耳打ちをして、にっこり微笑んでみせる。時枝は「まさか」と笑ったが、みどりはかぶりを振り、こちらを見ていないようで、実は気にしている少女の気持ちを代弁した。
「いいえ、間違いありませんわ。だって時枝さまは、今や聖園女学院の大スタア。『花の帝都の探偵小町』さんなんですもの」
「もう、その呼び方、恥ずかしくってたまらないのに」
「あら、だって本当のことですもの。わたくしの家の者も、時枝さまのことを探偵小町さんとお呼びしておりますのよ」
 最初は誰もが時枝を遠巻きにし、「名探偵の遺児にして上海帰りの混血児」と異端視していたのだが、それもほんのひと月ほどのこと。みごと怪盗アヴェルスを退けてからの時枝は、下級生からは思慕と恋慕の、同級生や上級生からは敬愛と憧憬のこもった熱い眼差しを一身に受けるようになっていた。
 無論、みどりもその一人であり、時枝に対して、ほかの誰よりも深い親愛の情を抱いている。親友として常に時枝の隣に立ちながら、みどりは日々、みずからの心に巣食う独占欲と戦っていた。それに比べれば、周囲からのやっかみの視線など、まだまだかわいいものだった。
「わたくし……きっと皆さまから、とても恨まれていると思いますの」
「恨まれるって、どうして?」
「女学院の憧れの的である時枝さまと、こうして親しくお付き合いさせて頂いているからですわ」
 そう言いながら、みどりは校門脇に立つおさげ髪の少女に、再び視線を戻した。
「あのかたもそうですけれど、最近、時枝さまのように、お袴の裾をちょっと短くしていらっしゃるかたが多いでしょう?」
「そうね、そう言われてみれば」
「お袴を時枝さまくらいの丈にするのを、皆さま『永原ルック』って呼んでいるんですのよ」
「な、永原ルック~?!」
 よほど驚いたのか、時枝が素っ頓狂な声を上げる。みどりは苦笑しながら、『永原ルック』が聖園女学院だけでなく、よその女学校にもはやっているらしいことを話して聞かせた。
 思いきり短くした断髪がなせるわざなのか、どこか少年のようにも見える時枝は、すでに満都の少女たちの憧れの的になっているのだった。
「もう、そんなことが先生やシスターがたに知れたら、あたし、またお小言を食らっちゃうわ」
 照れて上気した頬を押さえて、仲良しさんたちと家路に着く学友たちの格好に目をやる。いわゆる『永原ルック』で決めているのは、同じ四年級や、下級生たちに多いようだった。
「あ、いま、あのおさげさんと目が合ったみたい。もしかしたら、あたしになにか用があるのかしらん」
「そうですわね……よろしければ、時枝さまのほうから、お声をかけて差し上げて下さいな。下級生から上級生のお姉さまに話しかけるのは、とてもとても勇気のいることですの」
「わかったわ」

 

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