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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season18-12

   

“野原に咲く花は実は穢れている”。北萬治氏が執筆した新作。

 御影はそれを読み上げる。だが、大筋は大地が要約したものだ。

 茂原の家族が記されている。家庭内暴力をする酒飲みの父。厚化粧で派手な格好の母はスナックで勤務している。妹はまだ小さく、兄である数道が世話をしていた。母は育児放棄していた。

 中学生になって数道はいじめにあう。そのことも含め母が学校に呼び出され、家庭の状況を伺う担任に怒号を飛ばす。そんな姿を垣間見て数道は家出をした。

 妹一人残して飛び出した。そんな妹が両親の憂さ晴らしの捌け口に虐待を受けているのでは、そう思ったら罪の意識を感じはじめた数道だった。

 久々に育ったアパートにもどる。泣き叫ぶ妹の声が近所を轟かせているかと思ったが、とても静かだった。外から様子を窺う。信じられない光景が数道の目に飛び込んできた。

 幸せそうな家庭がそこにはあった。混乱して絶望の淵に佇んでいる数道に声をかけた婦人がいた。マルチーズ犬を連れていた。

 まさか、他人であるその人から衝撃的な事実を知らされるとは思ってもみなかった。

 事実を知った数道は再び家族のもとへ訪れ、己の覚悟をぶつけにきた。

 それは取り返しのつかないことだ。手を赤く染める衝動的な怒りをぶつける。

 一家惨殺事件の真相が明らかになる。

 

“野原に咲く花は実は穢れている”

 茂原 数道は大罪をその手に犯した。親殺しをしている。原因は親の暴力だった。父は酒飲みのろくでなしで、母はスナックで勤務して家事をしない育児放棄者。

 数道は両親の愛情のようなものを感じたためしはない。小さな妹がいるというのにその面倒もみない。そのため兄である数道が世話をしていた。

 数道は孤独な幼少期を生きていた。妹がすがりよってくるからまだ救われていた。小学六年生まで耐えに耐えてきた。中学に入学してからは同級生からいじめが勃発。悲惨な家庭環境のせいで、周囲に悪影響を及ぼし嫌われていた。

 そのことで中学校から呼び出しを受けた両親だが、母だけ中学校に姿を見せた。夕方だったため出勤前に母は学校に訪れた。厚化粧に深紅のワンピース姿だった。いかにも水商売をして夜の仕事に踏み入れているのが一目瞭然だった。

 担任は注意はしたが、家庭ではどうなっているかと訊ねると怒号が飛んだ。それは担任の身体を突き刺すほどの罵声のナイフだった。そんな姿を見て、ついに耐えきれなくなった数道は家出をした。
 自分がいなければいい、そんなふうにも思った。

 路頭に迷い喧嘩に暮れていた。成長期でもあり身体が発達した。それでも父親と同等くらいだ。だが力がついている。いまならねじ伏せることができるかもしれない。

 小さな妹はどうしているか、毎晩泣いているだろうか。憂さ晴らしする捌け口がいないせいで、その矛先は妹に向いているはずだ。

 数道はそう思ったら突如、全身が震えはじめていた。すべての責務を妹に押し付けて逃げたことに罪の意識がこみ上げてきた。
 
 

 ぼろい古びたアパートの一室を見た。一階に住んでいる家族が真昼の時間帯に金切り声が飛び交っているのが自然な風景だろう。近所からも様子を窺うように覗かれているのを覚えている。

 久々に訪れた育った家庭を数道は覗き見たが、とても静かだった。出掛けているのだろうと思った。しかしその目で見た光景は信じられなかった。

 妹を挟んで酒飲みの父と派手化粧の母はすっぴんで、穏やかに笑顔を浮かべて三人は幸せな家族を演じていた。

 どうなっている、これがあの冷えきった家庭の姿か。

 近所のおばさんが数道に声をかけた。

「キャン」愛犬マルチーズの散歩の途中だった。

「あら、帰ってきたの」その声はどこか沈んでいた。とても残念そうな印象を受ける声質だった。

「いえ、そういうわけでは…」数道は父親をぶん殴りにきたのだ。力で屈した者への復讐を込めて帰ってきた。が、数道は信じられないことを知った。

「あなたがいなくなってからどういうわけか穏やかな家族になってね、聞いてみたの…そしたら息子のあなたは養子だった。でももっと驚いたのがあなたの戸籍はまったくこの家族にないみたいよ」

 数道にむかってわざわざそんなことを言うんだろうか。言わなくていいことを、まるで数道は存在しているというのに世間では戸籍のない透明人間のように実感がなくなっていく。酒飲みの父と厚化粧の母の子供ではなかった。

 自分はいったい誰なんだ。自分の存在に恐怖して震える数道だった。

「あなた、拾われた子供なのよ」おばさんはさらに痛烈な言葉をいった。

「それは母から聞いたってことですか?」数道は声が震えていた。

「ご、ごめんなさいね」

 おばさんは余計なことをいってすまなそうにその場を去っていった。

 それは確かなことだという意味だ。

 妹も本当の妹ではない。まったく関係がない家族。数道だけが邪魔な存在だった。そのための演出を家族は演じていたというのか。

「追い出すために…」

 愕然と肩を落とす数道だった。雨に打たれる野良犬の気分に浸っている。危険な衝動がこみ上げてくる。爆発する感情を抑止できない。コンクリートの壁が眼前にあるが破壊してしまおうか。拳の骨と肉が粉々になるまで。だが治療費がない。みっともない真似は避けたい。

 何も考えられない。数道は思った。「もう生きていける場所はどこにもない」

 自分の出生さえ偽りだった。あの派手な母親から産まれたわけではない。どこかに捨てられていたのを偶然、あの両親が子犬を拾う感覚で自宅に持って帰ったのだろう。

 なんとなく幼い頃に公園でママ友たちと話しているのを聞いたことを思い出した。こういうときに深く眠る記憶が掘り起こされるのは不幸である証拠だ。

 派手な母は、子供ができにくい体質だった。その話しの意味が幼少の頃はわからなかったが、いまでは理解できる。そのため妹が産まれたときの両親の尋常ではない喜びようときたらそれは嫉妬してしまうほどだった。

 父は数道に暴力はしていたが、妹にはいっさい手を上げることはなかった。それはつまり不要な子供を排除するための彼らなりの練った策と手段だったのだろう。

“おそらく、自ら立ち去ってくれるのを待っていた。いやがらせをすることでそれはいずらくさせる。環境を奪い穢すことで思春期特有の家出という選択肢だけを選ばせる方法を模索した”。

 まんまと数道はその道をたどった。決意は固まった。心を抑えながらこの数日後に、家族のいるアパートの玄関前で呼び鈴を押した。

 やることがある。やらないとならないことがある。ただ、許せない。

「粛清だ」

 

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