見習い探偵と呼ばないで! Season18-13

 新刊を大地が要約した。その文面に一か所嘘がある、と御影は気づいた。

 それが名前だった。一家惨殺事件の真相をマルチーズ犬を散歩させていたご婦人から聞いた。

 北萬治氏は名前を偽っていた。あることも指摘した。それが肝心の一家惨殺された家族の名前がいっさい記されていないということだ。

 御影はその名前をいった。一家惨殺事件の重要参考人として警察のデータベースでおそらく履歴が残っているだろうその名前をだ。
 
 

 警察はいっきに畳みかけようと日夜捜査を続ける。家出した少年がいる。その少年の足取りを追うもいっこうにたどり着かなかった。しかも学校や同級生に聞き込みすると、別の問題が浮上した。要するにいじめだった。

 だが、一春という少年が育った証拠がひとつもなかった。学校の行事や写真、小学校の卒業アルバムにもなにもない。

 一春が家出したのち、一家惨殺事件が起きた。幸せな家族は自分を取り除くことでその光景を目の当たりにした。

 逃亡する一春は、茂原 数道という名で裏の世界で生き抜いていた。暴力団組織に拾われ下っ端のチームに所属し、20歳にはそのチームも卒業して自立させられた。

 職を転々として二年前に平城出版社で働くことになった。しかし、脅かされるように北萬治に素性がバレて新作のモデルとして罪が暴かれようとしていた。
 
 

 一春の不幸な生い立ちが明らかになる。

 

 御影はあらすじを語るアナウンサーのように刷り上がったばかりの保管された新刊を読み耽る。

「もっとも今のは仲間の探偵である大地さんて方が要約してくれた文面だ。ここまでノンフィクションで語り綴られているが、一か所、嘘が書かれている」御影はいった。それは大地から教えてもらったわけではない。

 御影が独自で目黒区内を闊歩していた最中、一家惨殺事件があった付近に住むマルチーズをこよなく愛するご婦人から伺った閉ざされた真相だ。

「え!」近藤は声を上げざるを得ない。「どこが!」

 御影の背後にいる全員の視線を集めていた。

「名前です」

「名前?」土方は思い返すが、出版にあたり名前に関してなにか嘘があったようには思えない。

「本編では、この一家の名前がいっさい出ていない」

 近藤と土方は、たしかに、とつぶやいた。

 読んでいない政木警部とほかの探偵はただただ黙っていた。

「しかし、茂原 数道とずっと名前はでている」土方はいった。

 御影は茂原をずっと睨んでいた。

 熱い視線に耐えきれなくなったのか、茂原は一瞬、御影の視線から目をそらした。

「北萬治先生もそのことを知っている。だが、偽名である茂原 数道という名であれば証拠はでない。警察のデータベースでも過去の犯行と結びつける要素はなにひとつとしてない」御影はいった。

「御影、少年だった茂原は家出をした。そのときにデータは上がっているんじゃないのか?」火守が鋭く詰め寄った。

「そうですね」御影は火守の指摘に同感していた。「ですが戸籍上家族に加えられていない彼が家出しようと、その家族が捜索願いを出していなければその指摘は成立しないでしょう」

「なに?」火守は顔を歪めた。

 政木警部は、そうだな、といった。

「北萬治先生ほどのキャリアを持っていれば警察とも密な関係性がありますよね? 氷室名探偵のように」御影は北萬治にむけて微笑んだ。

 北萬治は鼻で一度笑っただけだった。

「ノンフィクションと謳っていても8割ほどとあえて公言していた。それは隠ぺいしていることの伏線だ」川上がいった。

「そういうことだ。あなたの名前を言いましょう」御影は茂原を直視し敵意をみせた。「もし、その名をいったのち、あなたは警察のデータベースで調べれば一家惨殺事件の重要参考人として履歴が残っているはずだ」

「待て…」茂原は小さく制しようとした。

「あなたの名は…」御影は無視して続ける。

「待て!」茂原は声を荒げた。だが、御影はそれを上回るほどの声を張りあげた。

「高杉 一春(たかすぎ かずはる)、それが本当の名前だな」御影は茂原の本名を口にした。

 
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