見習い探偵と呼ばないで! Season18-14

 茂原との決着のとき。

 御影は真相の暴露をとどめようとしても無駄であることを追い詰める。探偵や刑事にまで知られてしまった。

 もはや人質までとっている意味すら無駄となっている。そして御影は見抜いている。茂原は元々善人であると。その心の善に訴える。

 更なる真相を突き付ける。他者を思いやる茂原自身は知りえていない事実を。

 せめてもの改心を茂原に求めて、高杉という名を記さなかった。その手にかけてしまった一家に許しを請うこと。それに気づいてほしく著者からの意図を感じとってほしかった。

 茂原はナイフを持つ手を下げた。それはこの事件の終わりを意味していた。
 
 

 火守の携帯に森谷から連絡が入った。平城出版社に爆弾がみつかった。解除コードがないと取り外すこともできない。

 茂原は観念していたから素直に解除コードの暗証番号を教えた。
 そのあと政木警部が問いただす。「仲間はどこにいる?」と。それは平城出版社編集員の沖田のことをいっている。だが、茂原は沖田の行動について把握はしていない。

 すると火守が叫んだ。教えてもらった解除コードでは解除できない。

 茂原ですら沖田に騙されていた。取り付けるさいに解除コードを書き換えていたのだろう。

 地下に響く階段をおりる足音が鳴った。

 沖田が姿を見せた。この犯行の裏に何か狙いが隠されていた。茂原もしらない事実だ。

 御影はすでにその狙いについて気づいていた。ここからは推理ショーの開幕だ。

 

 時刻は未明。ビルの外は青白い世界に染まっていた。

「夜明け前に決着といきますか。あなたはもう逃げられない。どれだけ足掻いても意味はない。これほど多くの人間に知られてしまった事実はかえられない」御影はいった。

 茂原は心の動揺が瞳に出ていた。秘密裡にしたことを知られてしまった。その気持ちの整理がつかないだけで、この男から力を奪うことができたのだ。

 御影は見抜いていた。この男、元は善人なのだと。罪の意識を脳裏に浮かばせ追い込めば、自ら償わないとならない自意識を呼び起こす。ダメ押しの真実を突き付ける。それは茂原自身が知りえない思いやりだ。

「先生がなぜ、本名を記さなかったのかわかるか?」

「ああ?」茂原は眉を吊り上げた。

「高杉という本名を記さなかったのは北萬治先生の優しさだ。せめてこの機会に改心してもらえればと思ったんでしょう、そうですよね先生?」

 囚われの身になっている北萬治は黙ったままだった。

「先生、そうなのか?」茂原は意表を突かれたように北萬治の顔を覗く。

「私の手で犯罪者を牢屋にいれるためではない。きみはあの家族の墓標の前に立ち、涙を流して許しを請う必要があると思った。それを感じとってもらいたかった」

「そんなこと、直接いえば…」

「だが、ノンフィクションとしてこれほどの魅力あるネタはほかにない」北萬治は作家の顔になっていた。

 茂原は笑いはじめた。「まさか完璧だと思っていた策略が…たしかに探偵さんよ、新刊が発売されるのを抑圧できればと思った。だが、この場にいる探偵や刑事、編集長たちに知られたらこれ以上荒ぶっても意味がない」茂原は緩やかに突き出していたナイフの腕を下げた。「先生は、やはりひとが悪い」

 全員の警戒心が赤から黄色、黄色から青へと鎮静化していく。冷たい倉庫の空気に暖かみが帯びた。

「ずいぶんとあきらめがいい」火守がわざわざ火に油を注いだ。

「ええ、北萬治さんが取材した内容を知られたくない。それをバレてはな…しかも高杉 一春の名前まで…脱帽だ探偵」茂原はナイフを抛った。

 御影は潔さに感服した。「あなたを見ていると本来、善人のくせに運のない人生を歩んでしまった。環境が大きくその人を踏み外せない道、引き返す道、左右にそれる道を選べずに背中を押す何者かの意図によって操作された生き方によって、過ちを犯し続けていた。そんな感じがする」

「どうだろうな、わからない」茂原は自嘲するように笑い、つぶやいた。

「だが、今はそうだろ?」御影はいった。

 北萬治を拘束する縄をほどいている最中、茂原は御影にたいして一度動きをとめ目を細めた。

「そのあきらめの良さはまだ奥の手があるからか?」火守がなおも詰め寄る。

「どういう意味かな?」茂原はすでにお手上げ。逮捕される覚悟の態度だった。攻撃性もない。しかし火守の険しい敵意むき出しの表情は御影もたじろぐほどだ。

「平城出版社に残っている探偵仲間から連絡があった」火守の携帯に森谷からメールが届いた。「出版社に爆弾が取り付けられたという情報はまちがいなく本当だったと。起爆装置の解除が必要だ。ある程度の振動には強いが、取り外そうものなら感知センサーによって爆破するという構造。警察の爆発物処理班も手ぐすね引いている状態だと」

「爆弾の取り付けた場所はわかったのか? すごいな」茂原は絶対にバレないところに設置したはずだった。

「地下鉄の天井のパイプの上に設置したな。爆発の威力は上へ、つまり出版社のビルが吹き飛ぶという構図だ。解除コードがないと取り外せないようだ、教えてもらおう」火守がいった。

「わかっている。暗証番号を押して、最後に解除ボタンを押す」茂原は暗証番号をいった。

“3860”

「へぇ、3860(みやぶれ)、見破れか」御影はすぐに答えた。「嘘を見破ったら勝ち」

 茂原はその通りだと言わんばかり自嘲するように鼻で笑った。

 
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