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縁は異なもの、味なもの(前)

   

大学で都会に行きUターン就職したはいいけれど、どことなく地元愛が薄い主人公と、その真逆の兄、そしてそんなことよりとりあえず趣味の御朱印を集めたい親友。そんな三人による、不思議な縁を感じながらのとある観光地巡りのお話。前後編です。

 

 都会から田舎に帰ってきてストレスに思うことの一つに「交通の便の悪さ」がある。
 都会では、数分に一本は電車やバスが走っている。隣の駅にだって、歩こうと思えば歩ける距離の場所もある。それがこと、田舎に帰ってくれば、電車もバスも数十分に一本。しかも終電が異常に早い。それに、隣の駅まで歩いていこうものなら、山越えを覚悟しなければいけない場所も多い。一度楽な生活があると知ってしまったら、誰が望んで不便な生活に再び戻ろうというのだろう? 人類が太古から進化してきたのと、きっとそれは同じ理屈なのかもしれない。

 小笠原 美穂は、現在二十一歳。別に自宅から通えないわけではなかったが、無理を言って都内に一人暮らしをしながら大学に通っている大学四年生である。就職も無事決まり、卒論も目途がついたので、今は友人たちと、もっぱら卒業旅行をどこにするかと話し合いながら残りの学生生活を送っている。美穂の就職先は希望していた都内――ではなく、ようやく内定が出たのは地元・三島の企業だった。内定が出ただけでももちろん御の字なのかもしれないが、都会に憧れ田舎の不便さを嫌っていた美穂にとっては、満足のいく結果ではなかった。それゆえ、せめて地元に戻る来年早々までは都内で便利に楽しく暮らしたい、というところなのである。
 卒業旅行で気晴らしをするのもその一環で、海外にするか国内にするか、何をするか――と、友人と集まってはワイワイと会話するのが楽しい美穂であった。

 そんな中。友人の中でも特に縁があって仲良くなった倉橋 恵美が、卒業旅行の前に「プチ旅行」をしないかと誘ってきた。
 恵美は、無類の神社仏閣参り好き。暇を見つけては、「マイ御朱印帳」片手に出かけていく、いわば参拝マニアだ。流石に卒業旅行でこれを主張すると他のメンバーに悪いと、特に仲の良い美穂に、卒業前に参拝旅行に行こうと提案してきたのである。
 ただ――参拝マニアと言えば聞こえはいいが、別に神社仏閣の歴史に詳しいわけでも、興味がるわけではない。恵美の目的はあくまでも「御朱印帳」を埋めること。つまり今回提案のプチ旅行も、そのページ数を卒業前に稼いでおきたい、というのが本心なのだろう。

「ねえ、美穂。せっかくだから、四国のお遍路にでも行かない? それなら一気に八十八稼げるわよ」
「あんたねえ……」

 どう考えても、真剣にお遍路をしている人々に怒られそうな不純な動機だった。しかし、四国自体に行ったことのない美穂にとっては魅力的な話でもある。そう、あくまで「旅行」ならば興味はあるのだが。

「一体回るのにどれくらいかかるのよ」
「さあ……一か月弱?」
「はあ!?」

 二人とも知識がない上に、度胸もない。しかもテレビなどでみる限りだと、回るからにはかなり本格的な準備も必要なはず。
 以前テレビで、スケートボードに乗った外国人がお遍路をしているのを見たことがあるが、「それなら早いかも!」と思ったところで、それを試す勇気も美穂達にはない。
 だいたい、美穂も、そして恵美も便利な都会での生活に慣れ親しんでいるが故、いくら御朱印帳のページ稼ぎをしたいからと言って、一月近くもいくのにはかなり抵抗があった。
 ただ恵美は完全には諦めきれないのか、「初心者でも気軽にできるお遍路方法、探してみるわ!」とかなんとか、本日も朝から四国・八十八霊場について、図書館やネットで調べているらしい。
 
 

「お遍路もいいけどさあ、一か月はきついよねえ……そういうとこって、たくさん歩くんでしょう? 旅行なら考えるし、空気はいいかもしれないけど、流石に勘弁だわ」
 ――その日の夜。久しぶりに実家のある三島市に戻ってきた美穂は、夕食後のダイニングで、母親にそんなことを愚痴っていた。

「いいじゃないの、一か月くらい。就職したら、長い休みなんて早々それないんだから、今のうちに行って来たら? いい思い出になるわよ」
「だって、一か月だよ!? 電車もバスもないようなところを、どうやって移動すんのよ。それに寝るところだって……」
「しょうがないじゃない、だからお遍路なんでしょ?」
「田舎で空気がいいのはいいけど、やっぱり長すぎるわ。それに、田舎はうちの周りだけで十分。これからずっと、ずーっと空気『だけ』はいいんだから」
「まあ。静岡の何が不満なのよ。いいところよー、自然も豊かだし食べ物美味しいし。海と山が共存する街なんて、中々ないじゃない」
 ぼやく美穂を諭すように母親がそう言うも、
「いいところなのは分かるわよ。でも、住むのと、一時だけ旅行で来るのとは違うの! 電車もバスも全然来ないし!」
「車の免許取ればいいじゃない」
「そういう問題じゃないの!」

 地方で暮らす人間にとって、運転免許の有無はいわば死活問題だ。美穂も来月から都内のアパート近くにある教習所に通うつもりではいるが、今の問題は確実にそこではない。

「とにかく! お遍路は興味あるけど、四国はハードルが高いのよ!」
 美穂は母親が入れてくれたコーヒーをすすりながら、そんなことを呟いたのだった。

 と、その時。

「じゃあ、こっちで済ませれば?」
 美穂と母親の不毛な会話が不意に遮られた。
「あら、お兄ちゃんおかえり。ご飯は?」
「ああ、食べるよ」
「じゃあすぐに準備するわね」
 母親がそう言って、一旦キッチンへと引っ込んだ。その代りに、美穂の兄である紘一が美穂の前に座る。
 

 

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縁は異なもの、味なもの 第1話第2話

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