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透明の世界 4話「深雪ちゃんは傍観者(1)」

   2017年4月27日  

短編集「透明の世界」

第4話「深雪ちゃんは傍観者(1)」

――――深雪ちゃんは、私の不幸を傍観している。

 

 
 隣の教室には、絶世の美少女がいる。
 声も、佇まいも、何もかもが完璧に整っていて、恐ろしいほどの美貌を兼ね備えた女子高生。私は彼女以上に完成された人間を知らない。

 ――――教室の隅、窓際の席で、彼女はいつもと変わらない様子で本を読んでいた。また、行きつけの古書店で手に入れたのだろう。全く知らない作者の名前と題名が、茶色く変色した本の表紙に記されていた。
 自然と、悪気なく、周囲に壁を作る彼女に、私は躊躇いなく近寄っていく。そんな私の存在に気づいた彼女が、ゆっくりと顔を上げて、本を閉じた。

「やあ、おはよう。衿子えりこ

 瞳を細めて微笑んだ彼女に、私は固い表情で言葉を返した。

「…おはよう、深雪みゆきちゃん」

 後二分ほどで、朝のホームルームが始まってしまう。そんな時間に隣の教室まで来たのには、理由があるのだ。

 深雪ちゃんの顔をじっと見つめたままの私に、彼女は訝しげな視線を向けてきた。

「珍しいじゃないか。君がこんな時間に僕に挨拶をしに来るなんて…普段はもっと早く来るのに…」
「うん、ごめん」

 挨拶には厳しい深雪ちゃんに、私は引きつった笑顔を見せた。

「挨拶はコミュニケーションの基本だとそう教えたはずだよ?」
「…うん、ごめん」
「…変だ。いつもだったら激昂するのに。うざいだの何だのって……」

 深雪ちゃんの透き通った瞳が私を捕らえる。

 私が言わずとも、彼女にはわかってしまうのだ。
 今まで私を――――傍観ぼうかんし続けてきた彼女には。

「どうしたの? 何があった?」

 本来、彼女には話したくないのだが、致し方ない。私一人では、きっと対処出来ないだろうから。

「…相談と言うか、話があるんだけど…」

 私がそれだけ言うと、深雪ちゃんは掌を叩き合わせて、頷いた。

「ほう! それは、もしかして……――――ああ、いやいい。君から直接聞こうじゃないか」
「? 深雪ちゃん…もしかして何か知ってるの?」
「…………」
「み、深雪ちゃんっ?」

 今から彼女に相談しようとしていたことは、まだ誰にも話してはいないのに、彼女は既に内容を知っているかのような素振りを見せた。

 微笑むだけにとどめた深雪ちゃんに、不意に手を掴まれる。

「さ、行こうか。裏庭でいいかな?」
「でも、もう授業が…」
「構わないよ。衿子もそのつもりだったんだろう?」
「…………」

 確かにその通りだが、私の為にそこまでしてくれる深雪ちゃんの方が余程珍しい。
 僅かに感じた寒気を、彼女の手の温もりで塗り替えた。

 

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