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歴史・時代

東京探偵小町 第五話「消えた猫」 <4>

   

「あたしね、父さまみたいに世の中の役に立つ探偵になりたいの。でも……そんなの、あたしには無理なのかしらん」
「いえ、そんなことはないと思います」

小説版『東京探偵小町
第二部 ―夜会編―

Illustration:Dite

 

「ところで、九段坂探偵事務所では、何か変わった事件はないのですか?」
 サタジットの退席を潮に自分も帰るべきだと思ったのだが、サタジットの残していった「タジさんのおひめさま」という言葉が気になって――正確に言うと少々悔しくなって――柏田はもう少しばかり、時枝の笑顔を見ていこうと気になった。
「それがね、聞いて聞いて!」
「お嬢さん、しばらくは学問に専心すると」
「違うの倫ちゃん、妙な事件なんかじゃないわ。あのね、今日、女学校の下級生さんから『猫探し』を頼まれたの」
「猫探し?」
 倫太郎と柏田が声を揃えて尋ねる。時枝は大きくうなずいて、かわいい下級生からの頼まれごとを話して聞かせた。
「はー……さすがは『花の帝都の探偵小町』さん。女学校でも、大人気なんですねえ」
「やだ、別に人気ってわけじゃないわ。でも探偵を目指す身としては、探しものを頼まれたら断れないもの。それにその猫ちゃん、春子ちゃんの大事なお友達なんだし…………」
「なるほど。優しいですね、お嬢さんは」
「倫ちゃんだって、こんな話を聞いたら、放っておけないでしょ? だからお願い、倫ちゃんやわごちゃんにも手伝ってほしいの」
「もちろん、お手伝いしますよ」
 時枝を安心させるように微笑んでみせ、柏田も手伝いを申し出る。ここに和豪がいれば文句のひとつも挟むところだが、話は和豪の協力も前提で、どんどん進んでいった。
「美しい野良の虎猫で、名前はハナ。手がかりは、これだけですか?」
「あとは……目の色は薄い黄緑色で、メスだけど体つきはしっかりしていて、野良だけど愛想は良くて。煮干しとお魚の頭のところが、大好物なんだって」
 時枝は春子の話から得た手がかりを、ひとつずつ数え上げた。
「それから、首にきれいなリボンをつけていることがあるんだって。春子ちゃん、自分のほかにも、ハナちゃんをかわいがっている人がいるのかしらんって言ってたわ。でも、それならそれでもいいって……ハナちゃんが幸せなら」
「相手は動物ですからねぇ……餌につられたんでしょうかね」
 柏田の言葉に、時枝はため息まじりの同意を示した。ハナの首に結ばれていた絹のリボンから、ハナがそこで「いい餌」をもらっていることは容易に想像できる。より環境の良いほうに居座るようになったとしても、なんら不思議はないのだった。
「とりあえず春子さんには、いつハナが戻ってきてもいいように、餌を用意しておいてもらいましょう。煮干しならこの暑さでもそう簡単には傷んだりしないでしょうから、いつもハナが現れる場所に、煮干しを入れた小皿を置いておくように言って下さい」
「わかったわ」
「野良猫というのは、基本的には、自分の縄張りのなかだけで暮らしているものなんです。なにかの拍子で縄張りの外に出てしまうと、一種の恐慌状態に陥ってしまい、方向感覚もなくして、もとの縄張りに戻れなくなることがあるらしいんですよ。まあ、猫によりけり、なんですが」

 

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