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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season19-2

   

 政木警部から届いた二通のメール。読み進めると氷室の記憶が走馬燈のように思い出される。

 それは氷室が警察時代の苦い事件の一幕だ。

 氷室は警察で働くことになると、すぐに人気がでた。警察にとってもタレント的に活動させ子どもが将来なりたい職業一位の座に輝いた。

 これを氷室エフェクトと呼称された。

 そのころに警視庁の刑事課へ出世し華々しく捜査一課で事件を追うことができる。だが、そこには一癖ある刑事がごろごろいた。

 そんなとき、ひとつの事件に巻き込まれる。夫婦発砲事件。夫が妻を酔っぱらって誤って撃ってしまった。致命傷でありながら、一命はとりとめた。

 当時の本山警視がこの件については事件性にせず、マスコミや公にはしないように計らうことになった。

 要するにもみ消すというのだ。発砲した夫は刑事だった。こんな不祥事を公表したら警察の信用はがた落ちだ。

 警察の威信をかけて本山警視が預かり大ごとにしないことを氷室にいった。

 だが、真実を明らかにするのが警察の仕事。氷室は憤慨していた。しかし、そんな暗雲ただよう氷室の胸の内を察するように本山警視は一喝した。

 自分の捜査がうまくできない、できたとしても上が捜査の結論をどうするかを決めてしまうのであれば真相は闇のまま。

 結局、氷室にとっては未解決事件として過った判断のまま刑事を続けることはできない。

 これを機に警察を辞め、探偵社を発足する…

 

 メールの文面を読んでいくと、氷室は記憶が走馬燈のように遡って再生されるような顔になった。

 不安と戸惑いと後悔と悲痛の色が混じっていた。

 十年前の記憶。それは氷室名探偵としてはパンドラの箱に封印してやりたい刑事時代の最後の一年だ。不毛の一年。氷室の黒歴史といっていいだろう。

 氷室は、取り返しのつかない過ちを犯した。

 どこか感受性の鋭い若い警官が誕生した。池袋の派出所勤務がはじめてだったが、すぐに出世した。キャリア組だったからだ。ゆくゆくは警視庁内部で出世する若き存在だった。

 頭脳はもちろんルックス、センス、なにもかもが古臭くどこか陰湿な警察のイメージを払拭させるプリンスキャラといってもいい。突如として浮世離れした若い美男子が、警察という後ろ暗い雰囲気を警察関係者に希望や光が舞い降りたと噂がひろまった。

「アイドルみたいなのが入ったぞ」どこかの先輩警官や刑事が冷ややかな目とからかいの口調で新入りをあざけるのだった。

 それは氷室にとっても嫌味でしかなかった。そんなつもりはない。警官として街の平和を守ろうという正義心だけを武器に街中を、鋭い眼光で見守っている。

 だが、上層部はそんな氷室を担いでいた。なぜなら警察へのイメージは極端に変化して連日氷室を取材にくるマスコミがいるからだ。とても明るいイメージがお茶の間を賑わして、その年、翌年と、四年連続、子どもたちの将来の夢の職業にお巡りさんが一位となっていた。

 これは“氷室エフェクト”、つまり氷室がテレビ画面に出るだけで視聴率もあがり、警察のイメージもアップするという効果があった。

 あっというまに警視庁刑事課へと出世した。だが、捜査一課になった初日に、とんでもないことが起きた。

 それは刑事が誤って発砲事件を起こした。銃弾は一般人に命中した。だが、さいわいといっていいのか、銃弾を撃った者と撃たれた者は夫婦だったことだ。しかも警察関係者だった。

 近所から妙な音がしたから調べてほしいと、通報が入り近くの警官が現場入りすると、男性は酒気を帯びて手には拳銃が握られていた。そして撃たれた妻は胸を撃ち抜かれて鮮血に染まっていた。

 酔っぱらっている夫から事情が聞けず、そこへ捜査一課が動いて現場についた。

 これをマスコミに報道されたら警察の威信が崩落する。氷室がイメージアップしてくれたというのに、その氷室が現場にいるのだ。

「でも、これはしかたがないですよ。こういうことはしっかりと公表すべきです。あとあと嗅ぎつけられたら言い逃れは困難。嘘に嘘を重ねるのはよくない」氷室は先輩方に意見した。

「若造がぁ!」

 筋の入った先輩刑事が氷室に噛みついた。

「こんなもんな、いくらだって誤魔化せるんだよ、これまでだってやってきたことだ!」多仁(たに)警部、恫喝ばかり吐く会話がやや困難な上司である。

「本気でいっているんですか? ダメですよ、隠ぺい行為は犯罪ですよ」氷室は食い下がる。「警察の関係者だからといってもみ消していいわけではない」

「うるせぇ!」多仁警部の拳が氷室の頬に飛んできた。

 ほかの刑事が止めに入ったが、これが問題になった。

 夫婦発砲事件で、とんでもない問題が浮かび上がった。夫の発砲した拳銃は警察から配給された銃ではなかった。

 なんのために警察の拳銃以外に一挺所持していたのか。氷室は頭をひねっていた。もとよりどこからその銃は手に入れたのか不思議でならなかった。

 なぜって氷室の直観がいうのだ。調べ尽くせと。重要な手がかりへとたどり着くからだ。

 

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