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依子の本気汁 4

   

 僕の試みは、文化祭終了から日を置かずに世間の逆襲を受けることになった。

 「分かりやすさ」の前では、何を言い張っても無駄なのだ。

 責任を取るべき時が近づいていた。

 

 
 「本気汁カフェ」は大盛況のうちに閉店時間を迎えた。売り上げは4万円を超え、実行委員会からの補助を加えた収支は黒字となった。後片付けを終えてから、僕と生徒たちはクラッカーを鳴らして成功を祝った。

 とはいえ、派手に騒ぐ話でもない。隣で正規出展に携わった生徒も集めて、僕は担任としての慰労の言葉を述べた。

「みんなご苦労さま。今回は僕の、言うなればわがままでイレギュラーな企画も決行したわけだけど、皆さんの協力で無事に終えることができました。感謝してます」

 僕の言葉は静かな拍手で迎えられた。特に自分の所感を述べる生徒はいなかった。カフェの収益は実行委の会計にプールされることになった。
 

 文化祭から5日後、スポーツ紙に次のような4段見出しのニュースが掲載された。
 

  文化祭で〝性接待〟喫茶
  担任が主導 県教委調査へ
 

 初報記事は、女子生徒が客をもてなす「メイド喫茶」風の模擬店が担任教諭の発案で文化祭に出たという内容だった。それにしても性接待という見出しはひどいと思って本文を読んでいくと、そこには「本気汁カフェ」という6文字が躍っていて、担任がこの名称を強引に押し通したと書かれていた。

 その日の授業が始まる頃から学校に報道陣が押しかけ、刈谷教頭と教務主任が出席して記者会見が行われた。僕は職員室から外に出ないよう命じられた。

 1時間近く経って職員室に戻ってきた教頭はさすがに憔悴の色を隠せない様子だったが、僕の目には、どことなくひと仕事終えた満足感が漂っているように映った。

「いやー、社会教育課にいた時に似たような記者会見やった経験が生きたわ。ああいうのは一度やっておくもんだな」

 会見では事前の打ち合わせ通り、最初から最後まで発案者である僕が主導したという説明が行われた。記者たちは「学校の上層部は実態を知りながら黙認したのではないか」と執拗に問いただしたが、学校当局としては「店の名前まで把握していなかった」との主張で押し切ったのだという。何より、いじめとの関連を問う質問が無かったと聞いて僕は胸を撫で下ろした。

「どうもご面倒を掛けました」
「いいって。しかし生徒にはみだりに取材に応じるなって言っておかなきゃいけない。ついては、あんたの考えを聞きたいんだが」

 立ったままの刈谷教頭はポケットに手を突っ込んで、探るような視線を向けてきた。正直なところ、今さら僕にできることなど何もないような気がした。

「生徒に精神的負担を掛けないよう、できる限りのことはするつもりです」
「要は例の女子生徒のケアってこと?」
「……はい」

 教頭は僕から目を逸らし、無表情に何度も頷く。晩秋の淡い日差しが、その表情に陰翳を際立たせている。

「やっぱりあんたの関心はそこか。だけど、取り越し苦労かもしれんよ」

 僕の机の斜め前に置かれたテレビの画面では、昼のニュースが終わって天気予報に移っていた。午後は曇りになるらしい。
 

 

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