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ショート・ショート

完璧なシゴト

   

新谷 龍一は元ヤクザの会社社長。普段は真面目な通販会社の社長をやっているが、拭いがたい記憶と脅威を感じていた。それは、かつて自分を陥れた相手、井之上 雄二のことだった。新谷はかつて彼に陥れられ惨殺寸前の目に遭ったことがあり、さらには別の件でも現在進行形の恐れを抱いていた。

あらゆるツテを辿り、新谷は処刑専門組織「カンパニー」を探り当てる。一見サラリーマン風の仕事人は、至って明るく、各種用意されたメニューを紹介してきた。
ターゲットの井之上強い恨みを持つ新谷は、迷わず「死亡届」コースを選び、莫大な必要経費を払うが……

 

 新谷 龍一は、寒風吹きすさぶ山道で、思い切りタバコの煙を吐き出した。
 どこかいぶしたような感のある独特の甘みは、国内販売の銘柄にはない。
 二十年ぶりに吸った洋モクは奇妙なほど身に馴染んだ。
(ふ、やっぱり気が急いていやがるのかね)
 火が唇に来そうになるほど念入りに吸い切ってから、新谷は吸い殻を投げ捨てかけた。
 昔は当たり前にやっていた動きは自分でも意外なほどスムーズだったが、動かそうとした右手は、別の力でふいに遮られた。
「こんにちは。ここ、禁煙ですよ」
 右手首を掴んでいたのは、若い青年男性だった。
 今風というのだろうか、直接的な運動や労働を経ていない彼の手は、新谷の記憶の中にある病弱な少年のそれよりも華奢だ。
 しかし、筋肉自体はバルクアップさせているようで、若い頃から常に鍛えてきたはずの新谷の腕力でもビクリとも動かない。
「固えこと抜かすなよ。今時の客連中じゃねえんだから」
「おや、新谷さんの会社は、社内完全禁煙の決まりのはずでは?」
 若い、山中にいるのではなく、山が描かれた名画を眺めている方が似合っているような細面の男がにこりと笑って立っていた。
 タバコや酒はおろか、カフェインさえ採っていないような、どこか不自然な清潔感を有している。
 新谷は眉をしかめて続けた。
「運送車も禁煙だ。規約上はな」
「ふふ、名目だけでも徹底できるとは、流石です。『ディスカウントシンタニ』の強さの秘密ですね」
 若者は心底からの笑みを浮かべて業績を評価した。
 新谷はつまらなそうに鼻をかいて応じたが、実際、「新谷安売株式会社」の業績は目覚ましいものがあった。
 筋が良い商品を多く取り扱う正統派の通販会社だが、注文を受けたオペレーターが運送までも請け負うため、他社には決して真似できないスピードを有している。
 また、自社所有の車で運んでいるため、どんな商品でも配送料を取らず、社名の安売りでも業界一と評判が高い。
 大型車の運転からオペレーター業務までする必要があるため社員に課せられたハードルは高いが、その分給料も良いし、後々に役立つスキルも身につく。誰から見ても超一流のエリート会社である。
「しかし、彼から話を聞いた時は驚きました。まさか、業界でもナンバーワンと目されている新谷さんが、我々に用があるとは」
「成り行きだよ。足洗ってすぐ入れる業界は少ない。成り上がって金と人脈を稼ぐにはどうするか。詰めていくと社を起こすしかなかったんだ」
 新谷は反射的にタバコを勧めたが断られた。やはり、とりあえずタバコを、というのは今風ではないらしい。

 

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