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ショート・ショート

俺ジットカード社会

   

バーに勤める篠原 秀子は、常連の砂川に誘われる形でレストランに来ていた。はっきり言って砂川は好きなタイプではないが、超高級店に連れていってくれるというので乗ったのだ。

しかし秀子は砂川の財布に一万円しか入っていないことに気付く。さらにこの店側の都合により、クレジットカードを使えないという貼り紙も発見してしまった。秀子も奢って貰う予定だったので、ほとんど現金の持ち合わせはない。
どうしようと内心慌てる秀子だったが、自信満々の砂川が店員に妙なカードを差し出すと、カードがねじ込まれたレジに普通では有り得ない表示が出てきて……

 

(同伴なんて柄じゃないと思ったけど、悪くないわね)
 篠原 秀子はニコニコと笑いかけながら持ち前のめざとさを発揮していた。
 店の常連である砂川に連れられて入ったレストランは、テレビで何度も取り上げられている超高級店。
 ネットでは値段の高さに文句を言う人も多かったが、お金を気にせず食べるならここ以上の満足はなかなかないレベルだ。
 また、勤めているバーよりもはるかにグレードが上であり、そのため他の常連客と鉢合わせになる可能性が少ないのもありがたかった。
「今日は本当にありがとうね、砂川さんっ」
 変に誤解されるのは嫌だからねという本音を笑顔と愛想の良い言葉でくるみ、秀子は目の前のステーキを頬張った。ブランドにこだわらず肉っぽさを追求したという赤身のオージー牛が、繊細な料理に慣れていた舌にガツンとしたインパクトを与えてくれる。
 ボルドー産赤ワインとの相性も抜群で、飲み干した後にデザートに向け口中がクリアになる感じもある。
 さり気ないチョイス一つとっても、この店が定説通りの超一流だと言うことが分かる。
(さて……)
 しかし秀子は冷静に値踏みをしていた。
 店がトップクラスでも、連れてきてくれた当人までトップだとは限らない。
 実際、酒が入った飲み屋での話が誇張やホラだらけであるという一般論を差し引いても、砂川は大した人物だとは思えなかった。
 何かの会社をやっているようだがまったく羽振りが良い、景気が良いといった感じはないし、店にいる、つまり金を使う段階にあっても可能な限りケチろうとする。
 そのクセ社長という地位を全面に出して他の客に偉ぶり説教じみた話をすることもしばしば。
 当然、常連たちからの評判も悪いし、秀子から見ても嫌な客だ。誘ってきた店が超高級でなければ、誘いに対して返信メールすら送っていないだろう。
 そんな悪感情を知らずに熱を上げる砂川の姿は滑稽だが、一緒に食事している以上は同じ「団体様」である。
 砂川が粗相をしたとなると笑って見ているわけにもいかない。
 だが、元から奢って貰う予定だった秀子の財布もかなり心もとない。

 

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