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透明の世界 5話「深雪ちゃんは傍観者(2)」

   

短編集「透明の世界」

第5話「深雪ちゃんは傍観者(2)」

――――今日も深雪ちゃんは、私を見つめ続ける。

 

 
「ああもう…私、何やってんだろ」

 混乱していたせいもあるが、彼女に当たるのは間違っていた。私に拒絶され、驚いていた彼女の姿を思い出して、大きく溜め息を吐き出した。
 冷たい壁に凭れかかり、天井を見上げる。
 授業の最中に教室へ入るのは、少々躊躇われる。授業が終わるまで、かなりの時間が残されてはいるが、気まずさと引き換えならばこの程度の退屈は何でもない。

「深雪ちゃん、もう教室に戻ったのかなぁ…」

 もしかしたら、まだあの場にいるかもしれない。様子を覗きに行こうかとも考えたが、やめた。今更戻ってどうする。何と言って彼女に会えばいいのだ。

「……私、ほんと馬鹿だ」

 今更後悔しても遅い。だが、それでも悔やまずにはいられなかった。

 深雪ちゃんは最低の人間だ。だが、私にそれを責める権利などありはしないのだ。
 そう思い、俯いた私の足元に突然影がかかった。

「木島さん」
「…?」

 私の目の前に現れたのは、一人の少女だった。長い三つ編みが揺れる。

「こんにちは」
「……こ、こんにちは」

 躊躇いがちに挨拶を返すと、彼女は満足そうに微笑んだ。
 彼女は親しげに私を見つめてくるが、全く見覚えがない。何故、見知らぬ生徒が私の名前を知っているのだろうか。尋ねようと口を開いたところで、彼女が話し出す。

「木島さん、こんなところで何をしていたんですか?」
「え? 何って……」

 どう答えていいものか少し悩んで、顎に手を当てる。すると、彼女は楽しそうに三つ編みを弄んで砕けた笑い方をした。つられて私も笑ってしまう。

「ふふっ、そんなに悩まなくてもいいのに」
「そう言われましても初対面ですし、言葉は選びますよ」
「…………」

 瞬間、彼女の表情が凍りついた。その瞳から一瞬の内に生気が消える。唇だけが弧を描いたまま、私を見つめた。

「お願いですから、気軽に話して下さい」
「っ」

 警告のように、脅すように、彼女はそう言った。目を見開いた私の手を握り、彼女はそのまま微笑む。
 この笑顔も、先程の笑顔も、何もかもが深雪ちゃんとは異なっている。私はこの少女の微笑みを美しいとは思えなかった。

「あなたもサボりなんでしょ?」

 次に彼女を目に映した時、もうそこにあの冷淡な表情の面影はなかった。安心したように頷く。

「まあ、そんなところですかね。あなもですか?」
「ええ。サボりっていうのも何だか退屈ですね」

 『退屈』――――深雪ちゃんの嫌いなものの一つだ。

「……そうですね」

 私がいつも思い出すのは、深雪ちゃんとの日々ばかり。こうして傍にいなくても、彼女を感じている。

 こんな風に思い詰めてしまうくらいなら、いっそのこと私が折れてしまおう。くじ運が悪いのは確かだし、今更腹を立てても仕方がない。

「私、もう戻ります」
「あら、まだ授業中ですよ。どこに行くんですか?」
「教室です。大人しく授業を受けに」
「そう。またお話しましょうね、木島さん」
「……あの、一つ聞いてもいいですか?」
「何でしょう?」
どうして私の名前を知っているんですか?
「…………」

 私がそう聞くと、少女は私を包み込むように笑った。そして、質問には答えずにそのまま立ち去ってしまった。

「何だったんだろう…」

 頭を抱えて考えていても仕方がない。私は首を振って疑問を振り切ってから、教室を目指した。

 

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