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家元 第一部 志げ(後編)

   

天才、井上愛子、そしての世界一のバレリーナ、アンナ・パブロワは、志げに大きな影響を与えた。二人とも全身、髪の毛一本まで、神経が行き届く、素晴らしい演技、自分もそういう踊りができるように精進しよう。志げの決意は固かった。

そのかいもあり、19歳(数え)になった時、師範代から家元に対し、「志げを名取に」と推挙された。「家元の孫は特別」と不満げな空気もあったが、これまでの志げの精進は誰もかなわないものだった。

新しい名取の誕生は、世代交代を促すもの。師範代、明石登喜枝は「自分の役割は終わった」と身を引くことを決めた。

さあ、志げの時代だ。

 

 
天才、アンナ・パブロワ
 

大正11年(1922)9月、ロシアの名バレリーナ、アンナ・パブロワが来日した。

「神戸の聚楽館でも見れるんに、なして東京まで行くんか?」

祖母の留が悲鳴をあげた。

映画館が30銭で入れたのに、特等席で15円、最低の三等席でも5円と大変な高額(現在の映画入場料1800円から換算すると、三等でも3万円!)、それに加え、東京までの汽車賃等を加えると大変な出費になるが、仙太郎は志げを東京に連れていくというのだ。

「ははは、何を慌てとるんや。東京で上方舞を見せて欲しいと言われとるから、汽車賃はいらへんのや。」
「それはあんさんのやろ。志げのは別やろ。どないするん?」
「もう、こまいことは言うな!」

梅蘭芳を見せた時の志げの驚きを思い出すと、世界一の踊り手、アンナ・パブロワはどうして見せたい。それに時代は東京を中心に回っている。せっかくの機会だから、それも見せてあげたい。それが仙太郎の気持ちだった。

「おじいちゃん、東京はえらく元気なところやな。」
「ははは、そうか、そないに思うか。」

初めて見る東京は京都とは全く違っていた。せわしなく歩く人に、志げは突き飛ばされそうで、ひやひやしていたが、仙太郎は皇居に深々と頭を下げていた。

「天子様がいらっしゃるんや。」

嘉永2年(1849)生まれの仙太郎は、明治の始まりと共に天皇陛下が東京に移られたのがショックだった。「東京に天子様を取られた」とこの時も思っていた。

 

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