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ハートフル

家族の肖像(7)~結婚編~

   

大学を卒業して5年がたった遥と利久であったが、相変わらず友人として親しくしていた。
利久と菜々美は結婚し、直人と言う愛息子も生まれた。
「性同一性障害」という障害を抱えている遥にとっては、家族を創る事は難しい事だと感じてはいたが、この3人の家族の中に自分も混ぜてもらえている事に心から感激し、ありがたいと思っていた。
そんな時利久から、菜々美が交通事故にあったと言う電話が入った。

 

遥と利久が大学を卒業して、既に5年が経っていた。
遥は好きだったグラフィックデザインの仕事へと付き、小さな事務所ではあるがそこそこ忙しい生活を送っていた。
一方、経済学部を卒業した利久は、やはり第一希望にしていた大手の銀行に入社し、現在では融資課でバリバリ働いている。

「ただ今帰りました!」
白いTシャツにジーンズ姿の遥が、事務所のドアを開けながら大きな声で入って行くと、社長や他の社員が口元に人差し指を立てながら
「しーっ!!」
とするので、良く見てみると、そこには菜々美が居て、その手前のベビーカーの中ですやすやと眠る赤ん坊の姿があった。
それを見て遥はすっかり納得した。
「いったい今日は何しに来たんだ?」
遥が呆れたように菜々美に小声で尋ねると
「ハル君冷たーいっ。」
と言ったあと、
「あのね、昨日パパが静岡出張でうなぎパイ買ってきたの。ハル君にもどうぞって。」
と言って、菜々美はにっこりと微笑んだ。
因みにパパとは利久の事だ。
「みんなも忙しいんだ。仕事の邪魔するならすぐ帰れ!」
と遥は少し怒ったような口調で言うと、すかさず社長が
「遥、そう尖がるな。引き止めたのは私たちの方なんだから。ほら、その、なんというか、直人君めっちゃ可愛いし…。」
とでれでれのだらしない顔をして言うと、他の数人の社員たちも、皆それぞれに頷いた。

社長はもうそろそろ50歳になる。
しかし、茶髪の肩までの髪の毛を後ろに一つでしばり、青いアロハシャツにジーンズをはいた姿は下手すれば30代に間違われるのではないかと言うほど、若々しく見える。
他の社員もそれぞれ個性的な格好をしているが、それもまたこの「グラフィックデザイナー」と言う仕事の魅力の一つなのかもしれない。

菜々美と利久は2年前に結婚し、その後、現在では生後7か月になる直人を授かった。
妊娠してお腹が大きくなる頃から、菜々美は時折こうして事務所に遊びに来た。
殆どが買い物を頼みに来たり、夫婦げんかの愚痴を言いながらのランチと言った感じだ。
遥にとっては、今でも「好きな人」である菜々美がこうして来てくれる事は正直言って嬉しいのではあるが、恥ずかしいのも併せて、今日のようについ邪険に扱ってしまう事もあるのだ。
その上困った事に、遥の会社と、利久と菜々美の住む家は歩いて5分ほどと、丁度良い散歩コースになっているらしいのだ。

 

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