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家元 第二部 母と娘(前編)

   

後に「大正デモクラシー」と呼ばれ、自由を謳歌した時代が終わり、元号は昭和に変わった。

昭和金融恐慌を皮切りに、満州事変、泥沼の日中戦争、第二次世界大戦と激動の時代、苑田流にも変化があった。

家元は祖父の仙太郎から志乃に引き継がれ、精進を怠らぬ志乃は評価を高めつつあった。また、プライベートでは山本圭介という伴侶に恵まれ、結婚し、娘の佳代子が生まれた。

家族こそ、志乃の支えだった。

 

 
昭和の幕開け
 

後に「大正デモクラシー」と呼ばれ、自由を謳歌したこの時代も、大正15年(1926)12月25日、大正天皇の崩御と共に終わり、様相が大きく変わってきた。

元号は「昭和」に改まり、翌2年(1927)3月、片岡直温大蔵大臣の失言による東京渡辺銀行取り付け騒ぎから発生した昭和金融恐慌が起こった。

当初は、関東大震災に関し、支払い猶予された、所謂「震災手形」を保有すると思われた関東の銀行で始まったものだが、「旦那はん、東京では銀行がどんどんつぶれているらしいどす。」と言うように、関西にも飛び火し、多くの銀行が休業となってしまった。

更に、4月に入り、台湾銀行の休業、ついには、当時の最大の商社、鈴木商店が倒産してしまった。

「早く売掛金を回収しろ。」
「現金以外はあかん。」

市場ではこのような声が飛び交い、苑田流の主な支援者である高田屋も山田酒造も浅からぬ損害を被っていた。

「お座敷が減ってしもうた。」
「お小遣い、ちっともくれへん。」

稽古に通ってくる芸妓たちの言葉にも世相が現れていた。

だが、踊りは日々の鍛練の賜物。一日でも休めば、取り戻すには、その倍以上の時間が掛かる。

「志乃、踊ってみなはれ。」

新たに師範代になった坂田ハルの下、稽古は休むことなく続けられた。
 
 

 

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