幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ハートフル

家族の肖像(8)~完結編~

   

 菜々美が事故にあったと聞き、急いで病院へ向かう遥であったが、打ち所が悪く既に菜々美は亡くなっていた。
 葬儀の日、利久は直人の面倒を「遥と一緒に見て行きたい」参列者の親類の集まる前で話した。
 皆が反対する中、菜々美の両親である大塚夫妻だけは「この二人は本当に菜々美を好いていてくれた」と言う理由で賛成してくれた。
「性同一性障害」と言う障害を持った遥にとって、愛する人の子供の面倒をみられると言う事は、この上ない幸せであり、ありがたい話だった。

 

 遥は、利久に聞いた通り、タクシーの運転手に病院の場所を告げた。

 病院に着いたと同時に、遥はタクシーから降りるともうダッシュで病院の受付まで走った。
 受け付けカウンターで「須賀菜々美」の名前を告げ、ついさっき救急車で運ばれてきたことも説明した。
 受け付けの女性はすぐに救急センターへ連絡してくれた。
 暫く話をした後、女性は曇りがちな表情で申し訳なさそうに説明した。
「その…、なんと申し上げたらよいのか…。須賀菜々美様は、先ほど息を引き取ったそうです。本当にお悔やみ申しあげます。」
 遥は、崩れるように床に座り込んでしまった。
 そうこうしている内に、利久が現れた。
 その眼には、こらえきれない物が溢れだしていた。
「申し訳ない!遥!俺は…俺は菜々美を幸せにしてやれなかった…。」
 そう言うと、利久は大きな体を小さくして遥の前で土下座をした。
「やめろ。利久。お前が悪いわけじゃ無いんだ。これは…神様が導き出した運命なんだ。」
 遥は、力なく、だが利久を思いやるつもりでそう言った。
 本当は神様のお導きなんて思っていない。
 もし神様がいらっしゃるなら、なんて残酷な運命を、それも愛する菜々美に突き付けたんだと、悔しくて拳を握りしめていた。

 遥は床の上の利久を立ち上がらせると、地下にある霊安室へと向かった。
 エレベーターの中で二人は互いに歯を食いしばり、しかし溢れる物をこらえることも出きず、ただただ嗚咽を漏らしていた。

 地下の霊安室には菜々美の両親が廊下の長椅子に座り直人を抱いていた。
 学生時代に何度か菜々美の家へ行き、夕飯をご馳走になった事もあった。
 また、利久との結婚式の時にも、菜々美の出産の時にも逢っていたので、今の二人の表情が尋常でない事もすぐに手に取るように分かった。
 遥は
「この度は、まことにお悔やみ申し上げます。」
 と言って二人に深々と頭を下げた。
「遥ちゃん…。今まで仲良くしてくれて本当にありがとうね。」
 二人は振り絞るような言葉でそう言った。

 

-ハートフル
-, , , ,


コメントを残す

おすすめ作品

笑顔のなかで会う

家族の肖像(1)

家族の肖像(3)〜青春篇〜

モモヨ文具店 開店中<9> 〜付箋紙ラプソディ〜

お仕事です! 第1章:樋渡和馬VS住所不定無職-4

怪盗プラチナ仮面 11

   2017/09/20

見習い探偵と呼ばないで!【番外編・御影解宗のデート】2

   2017/09/20

ロボット育児日記25

   2017/09/19

モモヨ文具店 開店中<33> ~日付スタンプを使っての琉華の覚え書き~

   2017/09/15

ロボット育児日記24

   2017/09/14