幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第18話「脱する」

   2017年6月12日  

ルイスが口にしていたエリザの鍵。シエロはそれを否定する。

「『来るべき時』を止める…?」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編』
【毎週更新】

新章 第18話「脱する」

 

 
「『来るべき時』を止める…?」

 ルイスがよく口にしていた、私と彼の『鍵』。プランジットの臣下が待ちわびていたもの。それには彼等の願い、思いが込められているのを私は知っている。だが、師匠の表情を見る限り、来るべき時とは幸福を指してはいない――――。

「キール、先に戻れ」
「で、でも長! 姉ちゃんの顔色が……」
「いいから。な?」
「長ッ!!」
「ッ、おい……大声出すなよお前……どうした。珍しいじゃねぇか?」
「姉ちゃんに無理させないで!」

 いつもなら師匠の言うことを素直に聞くのに、今日のキールは中々引き下がらろうとしない。彼の瞳は真っ直ぐに師匠を見上げている。恐れることなく、私を背に隠して――――。その姿を見て、私の脳裏にある人物の影が浮かんだ。
 ――――ジンクだ。私とルイスの従者として仕え、友人でもあったあの人。心ない言葉で私達を蔑む者達に立ち向かい、いつも守ってくれた少年。

 彼とキールがゆっくりと重なっていくのを感じて、私は唇を噛み締めた。

 私が人と出会う度に、彼等の姿が頭の中で甦る。だが、ここまで似て思えたのは初めてのことだった。

「師匠、どうかこのまま」
「そういうわけにはいかんだろうが……」
「キールは私が王族だと知っています」
「!? 何だと!?」

 キールの小さな体を見下ろして、師匠は目を丸くした。

「盗み聞きでもしたのか!?」
「してないよっ! でも、どうしてかそう思ったんだ! 姉ちゃんを見つけたあの日から!」

 私を見つけたのは、この小さな少年だ。だから彼にも知っていてほしい。私のするべきことを。
 むきになっているキールの頭を撫でて微笑むと、私は彼の目線に合わせて屈んだ。

「キール、私はね、あなたに一番感謝しているの。私を見つけてくれて――――笑顔を見せてくれてありがとう。だからそんなに怒らないで。ね?」
「……うん、ごめんなさい。大きな声出して……」

 落ち着いたキールを横に座らせて、私達は三人で亡の欠片を取り囲むようにして話し始めた。

***

 師匠は真剣な表情を浮かべて、欠片を指差す。

「亡の欠片は、伝説を秘めしもの……扱える者は数人程度しか存在しない。そして、その強大な力に呑まれずにいられるのはお前だけなんだ」
「! 私、だけ」

 ルイスが言った言葉を思い出しながら、私は顔を両手で覆った。

 亡の欠片は、英雄姫が精霊に授けたもの。ならば、この石を持っていたミッシェルは、一体何者だったのだろうか。
 顔から手を離して、師匠を見上げる。

「師匠、何故なんですか。どうして来るべき時を止めるだなんて……」

 ルイスは私に何も語りはしなかったが、それは私を成長させる為なのだとそう思っていた。だが、本当のことを言えなかっただけなのだとしたら――――私がしようとしていることは間違っているのかもしれない。
 頭ではそうわかっているのに、完全に振り切ることが出来なかった。私を見つめて遠くを見る、彼等臣下達の思いを忘れることなど出来はしなかった。私はずっと、あの切ない声に守られ続けてきたのだから。
 

 

-SF・ファンタジー・ホラー
-, , , ,


コメントを残す

おすすめ作品