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絶対貯まる貯金箱

   

貯金箱。家にあるだけでお金が貯まりそうなアイテムだが、実際満杯になるまで貯めるのはなかなか大変だ。しかも、買う時にはもちろん、取り出す時にも損をしなければならなかったりするわけで、「看板倒れ」の印象は拭えない、と上崎 一は思い続けてきた。

しかし、街中で見かけた「超貯金箱推進委員会」の会合では、そうした弱点を全て払拭した新製品が登場していた。

いくつか秘密はあるが、とりわけ底面の金属に工夫があり、入ってきたコインと接触すると、人が金を貯めたくなる音や香りを発生させるのだという。

お金を貯めたい、それ以上に今まで貯められなかった自分の問題点を解消したいと考える多くのギャラリーは熱烈な歓迎をもってこの新製品を受け入れた。

貯金箱というものに良い印象を持って来なかった上崎も、半ば勢いに乗るような形で購入することにした。

実際、その貯金箱はインチキでも何でもなく、お金を放り込むたびに素晴らしい音を奏で、芳しいほどの香りを発生させることで、使う側に充実感とモチベーションをもたらしてきたのだが……

 

「貯金箱なんて、あんなインチキに良く金を払ったな、お前!」
 上崎 一は、つい十五分前に口走ってしまった自分の言葉に顔をしかめた。
 明らかに言い過ぎ、無配慮だと思えるが、しかし、我が子同然に可愛がっていた甥っ子が生まれて初めてのバイト代をはたいた結果に、どうにも我慢ができなかったのである。
 彼が給料袋から出した三千円で買ってきたのは、今時珍しいと言うべきか、あるいは今流行のレトロ趣味と評するべきか、可愛らしいブタのデザインが施された陶器製の貯金箱だった。
 なかなか凝った作りで、首や尻尾が動いたりといった細工も施されている。
 その上卵とは言えプロの陶芸家の一点物となれば、三千円という値付けも頷ける。
 だが、これはインテリアではなく貯金箱なのだ。財布とは別の地点にコインなりを移動させ、持ち主に貯金を促す役割なのである。
 にも関わらず、このアイテムは購入者に安くない出費を強いている。
 しかも取り出しフタが設定されていないタイプであり、一度入れた硬貨を取り出すには壊さなければいけない。
 つまり、「金を貯める箱」とは言うものの、買った瞬間に持ち主を目標から遠ざけてしまっているのである。
 これが看板倒れと言わずに何と言おう、と上崎は強烈に思った。だからこそ年甲斐もなく檄高してしまったのである。
「ちっ、やっちまった……」
 とは言え、上崎自身、いかに理由付けてもまずかったという実感はある。
 どう考えても、冷静に諭すなり返品を促すなりすれば良かったのだ。
 感情的にキレてしまったことで、甥っ子はどこかに走り去ってしまったし、どうやら上崎にプレゼントするつもりだった貯金箱を手放す気には、二度となってくれないだろう。
 悪くすると、頑固な伯父のために休みを使ってくれることも、今後は少くなるかも知れない。
「しかしな、章悟。俺は、あいつらだけはな……」
 節くれ立った指で器用にポケットの中のタバコを取り出しながら上崎は呟いた。
 と、その瞬間、彼の視界に一枚の貼り紙が入ってきた。

「絶対貯まる! 超貯金箱推進委員会 展示会場」
「ぬうううっ」
 上崎は、歯を軋らせていた。
 お金を貯めたいという普遍的な欲を利用して商売するのは当然としても、粗悪な物を売っている、のではという感情が働いていた。実際、上崎は貯金箱にも、数多くの貯金箱が転がっていた実家にも良い記憶を持っていなかった。
 だから吐き捨てるような態度を取ってから立ち去ろうとしたのだが、同時に苛立ちを発散してやろうという気持ちも沸いてきた。
「まあ、話だけは聞いてやるか。ちょっとでも気に食わなきゃゴネまくってやるが、な」
 かなり不健康なうっぷん晴らしをしようと、上崎は会場に向かった。 

 

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