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家元 第三部 琴乃(後編)

   

昭和39年(1964)、志乃は満57歳になっていた。

病気一つしない健康体ではあったが、後継者問題は苑田流にとって避けて通れない、大きな問題だった。だが、娘の佳代子のことがあってからは、タブーだった。

  琴乃ちゃんはどうかしら?

熱心に稽古する彼女に情けが移っていた志乃は、そんなことも考えていた。

だが、古くから苑田を支えてきた、坂田ハルは「琴乃は名取にしてもいいが、踊りは苑田ではない」と釘をさしていた。

名取昇格を決める評定会議では、「琴乃は新しい風を吹き込んだ」と若手師範代からは高く評価する声もあり、志乃はほっとしていた。

そんな折、最古参の師範代、鏡佐知代から、「佳代子が踊りの相談にきた」と驚くべきことを告げられた・・

 

 
後継者問題
 

昭和39年(1964)、志乃は満57歳になっていた。

「家元はん、お元気どすな。」
「あらあら、褒めてもろうても、あちこち、がたがきております。」

戦後、日本人の寿命は飛躍的に伸び、昭和22年には53.9歳だった女性の平均寿命は、この年には70歳を超えていた。

志乃も病気一つしない健康体ではあったが、後継者問題は苑田流にとって避けて通れない、大きな問題だった。だが、娘の佳代子のことがあってから、それはタブーだった。

母の濱子は既に亡くなり、夫の圭介は満59歳、複数の会社の役員をしているが、もっぱら孫の相手が仕事のようなものだった。

上の孫、真紀子は8歳、下の和義は6歳になっていた。

娘の佳代子は真紀子は絶対に稽古場に近づけさせなかったが、和義はそうではなかった。

真紀子が幼稚園に上がり、バレエを習うようになると、自分も付き添うため、和義を実家に預けることが多くなった。そんな時、稽古場で遊ばせても何も言わなかった。

「和義、三味線の音が好きか?」

夫の圭介が膝に乗せた和義にそう言うと、泣きもせずに聴いている時もあったが、殆どはすやすやと寝息を立てて眠っていた。

だが、5歳になってからは、「おばあちゃんが踊るから、見なさい。」と言うと、「僕も踊る・・」と夢中で志乃を真似るようになっていた。

「将来の跡継ぎどすな。」

こんなことを言う者が少なくはなかったが、圭介は「家族の火種にしてはならない」と、志乃にも佳代子にも黙っていた。
 

 

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