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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season20-5

   

 氷室たちは負傷した小柴らが入院している病室で、今後の動向を思案する。

 入院している小柴らを襲ってこないとは限らない。不安要素は軽減していきたい。そのために、この病室を護ってもらう人手がいる。

 警察には頼めない。それは政木警部も同様だ。そこで水桐が提案した。昔の友人らに頼むと。それはつまり元レディースの女たちだ。

 大地は怯むが、男たちは賛成した。権力に仇なす庶民の足掻きである。
 
 

 水桐が病院の公衆電話から電話をして頼み、戻ってくるときに気づいた。

 小柴が目を覚ましていた。だが、まだ声すらでない。何かを必死に伝えようとしている。

 しかしすでにそれは氷室たちもわかっていることだ。自分たちを追い込んだ敵、それが誰かということを…。

 

 氷室たちは体勢を整えるため、小柴らが入院している病室で匿ってもらっていた。

「どうしますか、また女性たちに危害が及ぶのは望ましくない」御影がいった。「政木警部たち、もしくは知りあいの刑事にここを見張ってもらった方がいいんじゃないすか?」

「そうだな、それがいい」火守は恋人の斎藤が気になっていた。愛しそうに見つめる優しい瞳が、御影には痛ましくてしかたがない。

「しかし、森谷、雲田、川上の三名が裏切ったのであれば、それを指示した者がいる。しかもそれが警察の上層部なら、ここで階級の低い刑事や警官が見張っても、上からの命令だ、といって排除されても困る」氷室は予測した。

「そうですね…」御影はほかに妙案が浮かばない。

「なら、わたしの可愛い仲間がいるから、その子たちに頼むかな」水桐が誇らしくいった。

「だれ?」男たちは見当もつかなかった。

「わたしの昔の仲間だ」水桐がそういうと、大地が袖をつかんでいたが、手を放した。

「それってさ…」御影の記憶にかつて水桐の若かりし黒歴史がある。それを引っ張りだした。

「あぁ、なんか以前、おまえの地元あたりで縄張りにしていたというレディースか、暴走族あがりだったんだよな」火守は貶すようにいった。

「あれ、わたしにそんな口叩いていいのかな、火守探偵…、あんたの彼女を護って見張ってやろうってんだよ」

「うぅ、それは…」

「だが、水桐さん、根本的な解決にはなっていないと思う。警察がきたら元レディースの女たちじゃ逮捕されるだけでしょ?」御影は疑問を投げた。

「心配しなくていいよ、訪れた警察風貌の連中が警察手帳を見せて、上層部からのお達しとでも口実をつけて、現場であるこの病室を見張っている下っ端刑事や警官に命じることは容易なはず、でもそれは表向きにできない相談でしょ…」

「なるほど」御影はそのさきを察した。

「そのとおりだ、小柴さんたちをまた危険に及ばせる、もしくは人質にしようとしているなら派手には動けるはずもない。元レディースの手助けがあるのは派手にこの場で騒ぎにしてしまえば暗躍を企む輩はたじろぐだろうね。いいねぇ、権力に屈しない庶民の足掻き…、それは時に美徳となる」氷室は水桐の提案を呑んだ。

「よし、じゃあそれで行きます。ここはレディースのみなさんに頼むとして…」御影も提案にのった。

 水桐はそっと病室を出て電話をしてくるといった。

 大地はソファに座り、水桐の動きを警戒していた。そういう輩のタイプを毛嫌いしている。

「大丈夫だよ、大地探偵…、水桐くんは仲間だ」氷室は迷子の犬を躾けるようにいった。

「ワン…、いえ、わかってます、氷室探偵」大地は立ち上がった。

 御影は大地が冗談をするだけの余裕があるのだと胸を撫で下ろした。

「どうした?」氷室は大地がなにを感じとっている。それは能力の危機回避能力。アンチ・リアクションの発動の現れだ。

「なんか危ないことが?」御影は大地に問う。

「わからない…、でも予測はもうついている。彼らはわたしたちを狙っているのであれば…」

 大地の言い分は正しかった。

 御影、大地、火守、水桐、この四名は人質になるケースがこのあと起きる事態だ。

 警察の上層部は、氷室の頭脳を牛耳りたい。それに限っているのだ。

 もしそれが叶わぬなら、氷室までも失うことが、最悪の映像が探偵たちの脳裏に上映されていた。

「だとしても、わたしは一番たいせつな君たちと共にいよう」

「氷室さん、今回は逆ですからね」火守がいった。

 御影は逆の意味がわからなかった。

「俺たちが氷室さんに護られるわけではない。俺たちが氷室さんを護ることになる。だから一人で勝手なことをしないでください。身を犠牲に、黒幕の言いなりにはならないでください」

「そうだね、火守探偵…君たちの言い分は正しいよ」

 一致団結。心が一つになった。ガラガラと病室の扉が開き、水桐探偵が入ってきた。

 一同を見渡しながらも視線が止まったのは氷室でもなく、大地でもない。火守や、御影なんて見やしない。だが、水桐の顔は安堵の笑みを浮かべていた。

「小柴さん、気がついたの…」

 いち早く反応を示したのは氷室だった。全員が歩み寄り、ぐったりとしている小柴の顔はひどいものだった。完全に憔悴している。いまのこの状況が夢であったらよかったのに、と御影は強く思った。

 おそらく目が覚めたら記憶の混濁と消えない傷が心と脳には刻まれることだろう。取り除くのにはたいへんだ。

 小柴の声が出ていない。だから目は覚ましたが呼びかけることがなかったのだ。唇は微かに動いている。何かを伝えようとしている。

 彼女はいっさいの無駄口をしない女性だ。怪我をして入院したとしても、見た目で動いているのであれば問題ない、としてお見舞いは終わる。ここまでなにかを訴えようとしている姿はなにかがあると思わせる。

「なんだ…」氷室は耳を近づけた。それでもかすれすぎて聞こえない。

「もしかしたら爆発を起こした犯人を教えようとしているんじゃない?」水桐がいった。

 大切な人が狙われていることを、その窮地を救えるのならと必死に声をだそうとしている。

「雲田たちだろ」水桐の助言もあり、氷室が小柴の心を汲むようにいった。

 小柴は必死に何かを訴えかけようとしてもがくようにしていたが、唇が閉じた。目は安堵に満ちたようだ。

「さすが名探偵ね、って思っているんでしょうね」水桐は覗くように小柴の目を窺った。

 案の定、小柴はまばたきで答えた。

「普段は気が合わないくせに、こういうときは女の心ですか」御影は冷やかすようにいった。

「うるさい」小さく言葉を漏らす水桐。そして拳を振り上げて御影の頭頂部に落ちた。

 

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