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家元 第五部 和義と琴乃(前編)

   

佳代子は息子の和義に家元を継がせようと、本気になっていた。

志乃が鏡佐知代の稽古場でみた和義は、10歳ながらも苑田流の基本をしっかりと身に付けていた。

一方、琴乃は師範代見習いとなり、外部からの評判が高くなっていたが、「出る杭は打たれる」の言葉通り、古参の師範代らに恨まれ、志乃も擁護できず、稽古場を離れざるを得なくなった。

失意のまま、故郷若狭に帰った琴乃は結婚することになったが、それは望む相手でもなかった・・・

 

 
向き合わぬ母と娘
 

佳代子が稽古着で現れたという話は直ぐに志乃の耳に入ってきた。

「志乃はん、聞いとらんの?」
「何も・・」

鏡佐知代からの電話だった。

「佳代子ちゃんが稽古するつもりがあったんか分らないけど、稽古場の隅に稽古着で正座してたんよ。」
「・・・」
「それより和義ちゃんが変わったんよ。」
「和義が・・」
「うん・・変わったというより、緊張しとるん。これまでは30分のお稽古時間でも集中できんかったんに、昨日はおしゃべりも、悪ふざけもしないで、ちゃんとお稽古したんよ。」

同じ孫でも長女の真紀子は佳代子に厳しく躾けられたので、大人の顔色を読み、ここは叱られると思えば、絶対にふざけない。バレエの稽古も決して手抜きをしなかった。

しかし、和義はそうではなかった。

「男の子らしく、自由に伸び伸び」、そういう方針で育てられたため、人見知りもせず、どちらかと言えばやんちゃな子供だった。その子が例え10分でもおしゃべりもしないで稽古するとは、とても信じられなかった。

「先週教えたこともしっかり覚えてきたん。きっと佳代子ちゃんが家でも稽古させとるんよ。」

電話はそれで終わったが、志乃は複雑な気持ちだった。

1月の発表会の後、佳代子は「家元は和義」とだけ言伝して、母である自分に挨拶もしないで帰ってしまっていた。
 

 

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