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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season20-8

   

 日高警視に呼び出された政木。貫禄のある姿は相変わらずだった。どうやら氷室のことを気にかけて政木警部に訊ねるために呼んだのだ。

 なんといっても氷室が探偵になるきっかけを与えた恩師でもある。

 氷室のことを気にかけているのはわかったが、まさか探偵社を爆破した犯人が誰かを知っていたことに疑念を抱いた。

 日高警部の経歴に少なからずかかわりがあったことを明かす。元公安にいた日高。そして氷室を監視するために送りこんだのがその三人だった。

 理由はわかる。警察にとっても氷室の頭脳は脅威である。それがもし敵となったとき厄介だからだ。

 警視は今のこの状況は自分にあると責任を漏らす。政木はどうしてそう思うのか不思議だった。

 そのとき扉をノックする者が訪れた。

 政木はその人物を見るといつも咳き込んでしまう。そしてふたりの話をじっくりと耳を傾ける…

 

 政木警部はある扉の前に姿勢を正していつも一息吐く。扉をノックして中から野太い声が返ってきた。「どうぞ」

「失礼します」

 政木警部は日高警視のところに訪れた。

「お呼びですか」

 重苦しい鼻の下に髭、貫禄がある風貌。氷室が刑事を辞めたあとに探偵になるきっかけを与えた恩師だ。

 政木警部もこのひとを信頼している。だがいま氷室自身はこのひとにも疑惑を抱いているかもしれない。

 警察の未解決事件、難事件を解決するためだけに探偵に進めたのだと。いまとなっては政木警部ですらそう連想してしまうほど何かとんでもない内面が顔を覗かせようとしている。

 このひとはどちらだろうか。

「きみに訊ねたいことがある」たくわえた髭の中でもぐもぐと口が開いた。

「それは…、氷室名探偵のことですか?」

「そうだ。彼はどうしている?」

「お聞きになってませんか? 先日、彼の探偵社のビルが爆破され、従業員を含め彼ら探偵たちも巻き込まれていると…、それをしたのが氷室探偵社でこれまでずっと働いていた探偵であったと」

 日高の眼光が政木にむいた。「それは、雲田、森谷、川上という探偵か…」

 政木は目を丸くさせた。「なぜ、その名を…?」

 日高警視が的確にその名を口にした。

 異様な空気がただよっていた。

「そりゃね、公安部にわたしは以前いたんだよ。そこの課長とも知り合いなんだよ。そこで、わたしが氷室くんのことを手助けしたことを知った公安部課長は許可を求めてきた」

「許可ですか?」

「あぁ、いまいった雲田、森谷、川上、この三名を潜入させ警察にとって脅威にならないかと…、そう危惧したようだ。もっとも無理もない。テロリストに発展するようなことはないか、もしくは利用されるってこともある。そうなったとき、あの頭脳は脅威であるのはわかっているだろう?」

「はい」政木警部はそんな国外事のことまで考えているとは、上層部の思想は末端にはわからないところで管理している。だからかもしれない。警察の威信とは擁護するために手段を問わない。本山方面本部長が言っていたことが理解できてしまった。

 政木は唇を噛んでいた。

「警察にあるまじき行為か?」心を見透かされたように日高警視は政木警部に訊ねた。

「はい…、いえ、ちがいます…」

「いいんだ、本心をいいたまえ…、わたしもいつだって理不尽であると思っている。損得で、常に得でなければならない。それが警察組織を擁護することになる。一瞬たりとも国民に不快、不信感、そういうマイナス思考を与えてはならないんだ」日高はもっともらしくいったが、やはり自分でいっていながらもどかしくさえあるようだ。

「日高警視は年功序列を無視して出世し、今の地位にまでのぼりつめたと伺ってます。次世代の警察組織を担っているキーマンだと、それは氷室探偵と一番の師弟関係であるからですか?」

 たくわえた髭の中で笑みを浮かんでいるのがわかる。目が優しくなっているからだ。

「どうだろうな、彼はわたしを師だとは思ってもいないだろう。わたしがいつも助けられているばかりだ」

「それは事件という迷宮を先導する役目である氷室探偵が人生そのものを生きていくすべを教示なさったのは、日高警視であるように思います」政木は人生には導く先人がいるといっている。そして政木にとって日高もそういう存在ある。

 何度もうなずいてみせる警視。その目は薄く笑っているようだった。

 政木は日高の腹の奥底を探っている。ひと言ひと言に反応を見ていた。この男はどっちか。敵か味方。どちらでもないならこれいじょう長居は不要。むしろこのあとに迫る見えない状況下を救ってくれる味方にした方がいい。政木警部は鋭く目を細めていた。

「彼がどう思っているかはわからんが、わたしは心配だ。探偵社が爆破し、連絡がつかん。どこでどうなっているのか…、そしてその仲間たち…、こうなってしまったのはわたしのせいかもしれないしな」

「警視が? どうして…」政木は日高の温かみのある声に胸を打たれていたとき、扉をノックする音が響いた。日高警視は政木の質問を保留して応答した。

「はい、どうぞ」

 扉が静かに開いた。そして、にょきっと姿を現したのは、痩身なご高齢の男性であった。「やぁ、おっ、これは政木警部まで」

「ごぼっ」政木は咳き込んだ。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
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