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家元 第五部 和義と琴乃(後編)

   

若狭に帰っていた琴乃は昭和43年(1968)11月下旬、以前から言われていた網元の息子、小林正義と結婚式を挙げた。

だが、琴乃と小林正義では育った家庭環境が全く違う。琴乃の嫁入り道具が物置に入れられたり、結婚式の最中に「生娘なのか」など礼を欠く振る舞いが散見され、前途多難を思わせる新生活の始まりだった。

一方、和義は順調に上達し、佳代子と和解した志乃は「次は和義」と伝えた。

2年が経過し、志乃は琴乃を訪ねて若狭にやってきた。

新しい工場等の開設に活気づく町、琴乃が嫁いだ網元の家は、そこでも他を圧倒する存在感を示していた。だが、そこから出てきた琴乃は、「玉の輿に乗った嫁」とは言えない姿だった・・・

 

 
琴乃の結婚
 

「琴乃ちゃん、そう嫌がらんと。正義さんも昔とは違うし、何と言っても、網元だからお金はあるから、絶対に生活に困らんよ。」

琴乃が京都から戻ってくると、直ぐに網元の息子、小林正義との結婚の話が来たが、良い返事をしない三田村家にはあらゆる方面から圧力が掛ってきた。

最初は漁師である父に対して漁労長、船長、漁協組合長が連日のように返事をせまり、次は母に。買い物に出掛けるたびに呼び止められ、「早く返事をしなさいよ」とせかされていた。

そして、夏も終わる頃、とうとう琴乃がお世話になった学校の先生まで借り出され、「大切なのは経済力」と説得に掛かってきた。

外でどんな嫌なことがあっても顔に出さない両親だが、夜中に聞こえてくる、「漁労長が」、「組合長の奥さんから」などを聞くに付け、もうこれ以上は断り続けられないと、琴乃も諦めてしまった。

「お父さん、お母さん、うち、お嫁に行く。」
「お前・・」
「琴乃、ええんか?」

秋のお彼岸に墓参りに出掛けた琴乃は、先祖の眠る墓前で父母にそう告げた。

「いつまでも家に居ることも出来んし、こうすれば皆まるく収まるから。」
「かて・・」
「うちはやっぱり若狭ん女。こうするんが一番よ。」

琴乃は両親に笑顔を見せたが、彼女が明るく振舞えば振舞うほど、両親には、その笑顔の裏に隠れた悲しみがよく分かってしまう。

 

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