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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 3

   

 人間。それがどのような生物であるか、私たちは知っている。少なくとも知っていると思っている。しかし1カ月後はどうか。あるいは半年後、1年後は?

 そして過去のいかなる時期においても、私たちは人間の明確なイメージを見失ったことがただの一度も無かったと言い切れるだろうか?

 

 
 警察庁指定広域重要事件1××号(通称「プラチナ仮面」事件)の捜査本部メンバーが見守る大型ディスプレイ画面には、茶色いテーブルに置かれたピンポン玉のような白い球体が映し出されている。黒いビロードの布で覆われた台座に鎮座している様子は、意味も無く宝石並みの待遇を与えられているかのようでもある。

 画面が切り替わり、ケージ内にうずくまる一匹の子犬が映った。次に、目を閉じて寝入っている愛らしいその顔がアップになる。この大会議室に集まった刑事たちでなくとも、子犬の健やかな成長を願わずにはいられない、そんな安らかな寝顔である。

 やがてカメラが引き、子犬のケージが白い球体から50センチと離れていない様子を映し出す。

 当然ながら、このあとピンポン玉と子犬の間で何事かが出来しゅったいすると予感させる構図であった。いたいけな子犬にいかなる運命が降りかかるのか? いかに生き馬の目を抜く刑事たちとはいえ、心中に少なからず惻隠そくいんの情を生ぜしめたのは言うまでもない。

 再び球体がクローズアップされる。画面はその状態で止まった。……といっても静止画に切り替わったわけではなく、白球に焦点を合わせたまま動画撮影を続けているのだ。そして画面上には何の変化も起きぬまま、10秒、20秒と過ぎていく。

 1分も経とうかと思われた時、遂に変化が起こった。

 白球がにわかに振動した。最初の小さな振動がわずかな余韻を引いて収まった次の瞬間、より激しい2度目の振動が球体を襲う。

 激しく揺れる球体が台座から転げ落ちるかと思われたその時、球体表面に亀裂が走った。安手のピンポン玉かと思われたのはどうやら動物の卵であったらしく、孵化の直前だったのであろう。やがて殻に小さな穴が開き、内側に黒っぽい何かの一部がのぞく。ほどなく殻の上部を突き破り、幼生が姿を現した。

 殻を這い出てきたそれは、繊毛に覆われた6本の長大な脚を持ち、胸部の先には体長の7割ほどを占める尾のような突起物が伸びていて、一見して昆虫のようだった。ただし触角は無い。そして恐らくは本能の命ずるままにであろう、暗褐色の妖虫はケージの方へと、数多あまたの衛生害虫の例に漏れぬ素早さで走り寄っていく。どうやら子犬は犠牲者として選ばれたものと見える。画面に見入る刑事らの惻隠の情はいやが上にも高まった。
 

 

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