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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season20-14

   

 雲田らはある作戦行動中だ。六本木ヒルズから二台に車を乗り分けている。

 田場らボディーガードが後方で監視しながらも、雲田たち三名は前の黒いベンツ車を追走していた。

 どこで目的を実行するか。その目論見を互いに生じた亀裂のせいで、田場らは知らないまま監視に努めていた。

 総理を乗せた黒ベンツは国会議事堂の中に消える。もはやここでは手出しはできない。
 
 

 悠然と総理の安賀里 道邦が颯爽と歩く。その姿に女性記者がマイクを向けた。たいした質問をしないために叱咤され、ひと言だけつぶやいた。「殺してやりたい」

 同班のカメラマンと男性記者がその女性記者を呼びかけた。

 三人は報道記者として潜入していた。目的はひとつ。総理の命を狙っているテロリストだ。

 女性は以前、疋田と名乗っていた。

 

 六本木ヒルズより黒いベンツ車を雲田らはシルバーの乗用車で追走する。

 二台の車では目立つため追走するのは雲田、森谷、川上の三名が乗る一台だけだった。

 追っているのは政治家の車。小宮山議員に張りついている田場たちでは面が割れているかもしれない。だからどうしたって最前線は雲田たちが動く必要がある。顔を知られていないからだ。

「使いパシリにされた気分だ」川上が助手席でふて腐れていた。

 雲田は運転しながら言った。「そういうな、いまはしかたあるまい」

 後部座席では森谷が無駄口は慎めという目つきで二人の後頭部をちらちらと眼球が左右に移っていた。

 バックミラー越しでアイコンタクトだけで答えた雲田。つまり、三名の身体には発信器と盗聴器の高性能のポイントマークが取り付けられていた。

 それはかつて氷室探偵社で使用していた雲田の代物だった。シール型の盗聴器兼発信器だった。まさかそれを自分たちが監視されるために取り付けることを命じられるとは思ってもみなかっただろう。

 雲田はずっと氷室をマークしてきたが、いまは屈辱しかない。飼い犬になっている気分はぬぐえない。

 I-Pad画面で表示されているマークや、内蔵されたマイクから音声が聴こえるのを管理しているのが、少し離れたところから追尾している残ったメンバーのボディーガードの田場たちだった。こっちは黒いワゴン車で移動中だった。

「どこでやるかだ」田場は唐突にいった。

「本来どこで実行するつもりなわけ?」但馬は鴨原に強く責めるようにいった。

「しらないですよ、互いに公平のためにあいつらは監視されても作戦を教えなかったんだから」

「でも、それって自分たちの首を絞めているように思うな、俺たちは作戦を聞かされていない。ということはピンチになっても動けない」木村が優越感たっぷりといった。

 山上は黙っていた。

「それが向こうの動きを感じろだってよ」但馬は吐き捨てるようにいった。

「そこが刑事、いや元探偵らしい発想なのかもしれないな…、仮にも氷室名探偵の事務所に潜入していた。もう何年もだ。それに律儀にも依頼はしっかりと解決していたらしいじゃんよ」鴨原は笑っていた。

「まったく、おかしな連中だな、なんであんなやつらと組まなきゃならんのか」木村は窓の外を見た。

 運転する山上は真面目に安全運転をしていた。

「おい、山上、もう少しスピードだせよ、法定速度ぴったりじゃん」鴨原が煽った。

「だって、免許取得して三年ですけど、ワゴン車って乗りこなしてないんすよ」緊張している山上だった。

「おまえな、“総理誘拐”を企み作戦行動中だぞ。ワゴン車の運転で緊張なんかしてんじゃねーよ」但馬が怒号を運転席に投げた。

「し、しかたないっしょ、成り行きで運転席に俺、座っちゃったんだから、だれが代わってくださいよ、但馬さん」

「バッキャろ、俺はペーパードライバーだ」

 全員の顔に感嘆符が浮かんだ。ゆっくりと但馬の顔に視線がむかれた。冷ややかなその目に但馬は刺すような痛みを肌で感じた。

「東京出身で育ちもずっとこっちで、車に乗る機会があまりない生活していたからよ、このボディーガードの仕事に就いても運転はさせてもらえなかった。狩谷や多比良がいつも運転するの出しゃばってたから」

「出しゃばってって、おまえが小宮山さんの事務所にきたとき事故ったからだろ!」田場が全貌を語った。

 軽くニュースに取り上げられ、軽く謝罪する破目になった小宮山は二度と運転は許さん、と咎めたという。

 鴨原、木村、山上は呆れ返っていた。

「汚点というのはだれにでもある」但馬は脚を組みながらかっこつけていった。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
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