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SF・ファンタジー・ホラー

透明の世界 7話「さよなら、天使」

   

第7話「さよなら、天使」

――――幼馴染みとして傍にいる死神と少女の物語。

 

 
 彼女は放課後、俺が迎えに来るのを待っている。
 夕焼けに染まる教室で、誰にも見せない曖昧な笑みを浮かべながら――――。
 彼女の腰まで伸ばした長い黒髪が揺れた。窓際のカーテンに見え隠れする景色を見つめ、少女は呟く。

……かなぁ」

 彼女の言葉は、いつもどこか不可思議だ。俺には到底理解が出来ない。
 独特の雰囲気を纏うこの少女――――神代朝かみしろあさを奪うこと。それが死神の役割を与えられた俺のだ。だが、どうにも上手くいかなかった。
 神代は一般人の少女に過ぎない。それなのに、俺は一度も彼女に勝てずにいた。

 本来、俺達死神は、自分の身に余るような魂を狩るように命令が下された場合に限り、それを拒否することが出来る。標的と死神にも相性というものがあるからだ。魂を狩るには、相手の心を知り尽くし、利用する必要がある。だから、その任務が果たせない場合は、自ら標的の記憶を消し、関わり合った事実を抹消するのだ。そして、次の担当へ引き継ぎを行う。だが、俺には――――神代の魂を奪う覚悟も、彼女との記憶を消し去る勇気もなく、冥界によって神代を標的と定められてから、かれこれ七年以上の月日が経ってしまった。

 教室の入り口で立ち尽くす俺に、彼女は未だに気がつかない。

「神代さん」

 痺れを切らした俺がそう声をかけると、神代はやっとこちらを振り返った。目を丸くした彼女を溜め息混じりに手招く。

「委員会で遅くなった。ごめん」
うわ……多田ただ君だ
うわって何だよ

 俺がそう返すと、神代は窓に向き直ってしまった。彼女の小さな背中を覆い隠す黒髪に俺は思わず手を伸ばしかけて、慌てて引っ込める。
 ――――『タイムリミット』。彼女は先程そう言っていたが、もしかして何か知っているのだろうか。

「……窓、閉めないの?」
「もうちょっとだけ。あ、多田君、先帰ってもいいよ?」
「はあ? 今の今まで俺のこと待っててくれたんだろ? 俺も待つよ」
「……うん」

 教室に入り、彼女の横に立つ。窓に寄りかかって、神代の横顔を見つめると、何故か笑われた。

「おい、どうした急に……」
「ふふっ。うん、そうだったね!」
「だから一体何がだよ!」
「そういえば私、多田君を待っていたんだっけね?」
「そうじゃないなら、何で教室に残ってたんだよ」
「…………」

 彼女は、笑うのをやめた。そして、俺の手を握る。

待っていてほしかったから。私のことを」
「……神代さん」
「私はいつも多田君のことを待っているばかりだったから」
「……!」

 俺は目を見開いた。
 神代のこの声に、言葉に、死神の俺では勝てやしない。多田あかねの一生をかけたとしても、この少女には敵わないだろう。
 口から出かけた想いを飲み込んで、俺は神代の手を握り返すと、それからゆっくりその手を離した。

「俺、そんなにいつも待たせてるか?」
「うん。何かと言い訳しては遅れてるよね」
「……それは仕方ないだろ」

 人間界に来てから、俺は冥界との交信を絶っている。そんな俺を探しにやって来る死神達を、彼女の目に触れないように相手にするのは、正直言って骨が折れる。これを何年も続けているのだから無理はない。
 彼女に俺の正体が知られてしまうのも、最早時間の問題なのかもしれなかった。

「もういいよな」
「あっ」

 半ば強引に窓を閉めると、神代は慌てた様子で俺を見上げた。

「もうちょっとだけ!」
「だーめ。俺との約束忘れた?」
「……『十八時までに帰宅すること』でしょ。覚えてるよ」
「よし。じゃあ帰ろう」
「はーい」

 死神が魂を狩る為の専用武器を使えるのは、十八時まで。それまでに彼女を家へ帰し、その時間まで見張る。端から見れば幼馴染みにべったりのストーカーだが、仕方がない。
 いつか神代の魂を本当に奪わなければならない時が来るだろう。それが、俺と彼女の終わりだ。だが、今はもう少しだけ。後もう少しだけでいいから、多田茜として神代朝を守らせてほしいのだ。
 

 

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