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アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第25話「歯車」

   2017年8月14日  

過去ではなく、未来をやり直す為に。

「愛する人の生を願えずに、民の未来を変えられるわけがないと、私は……私はそう思う……からッ……」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編』
【毎週更新】

第25話「歯車」

 

 
「エリザ」
「はい……師匠」
もう、休ませてやろう
「…………」
「……いいな?」
「ッ、うっ、っう」

 堪えきれず嗚咽を漏らす私の肩をキールは抱いた。

「さあ、姉ちゃん……手を」

 キールの言葉に頷いて、私は腕の力を弱める。そうして二人は私を男から引き離した。師匠は島の者から渡された布を男にかけると、慎重に体を抱き上げる。そして、何やら大人達と話し始めた。

 先程まで膝の上にあった冷たい重みが一瞬でいなくなり、呆然とする私のことを、キールは無言で抱き締めた。
 どうして彼は、私に触れることが出来るのだろうか。先程のを見ていたのなら、とても私の傍に寄ろうなどとは思えないはずだ。だって、あの力は――――普通ではなかったから。船上で同じような力を無意識に行使したあの時だって、エイビスは私に『化け物』でも見るかのような視線を向けていた。大人の男が十歳の少女に恐れを抱くその様は、ただただ異様であった。

 私は、キールから体を離す。

「ねえキール。あなたは私が怖くないの?」
「えっ? 何で?」
「……戦う他にも道はあったのに、私はあんな風にわけのわからない力で彼を傷つけてしまった。あなただって見ていたでしょう……?」

 船上の時よりも、明確に現れた『力』。それは、明らかに人を傷つけることが出来るものだった。
 自分自身に感じていた違和感に、ようやく手が伸びた一方で、恐ろしくもある。私は一体何者なのか。
 混乱と焦りで俯いた私を、キールは一体どんな眼差しで見つめているのだろうか。

「うん、見てたよ。でも俺は……格好いいと思った」
「……!」

 キールの言葉に弾かれたように顔を上げる。
 私を見つめる彼の瞳は、何も変わってなどいなかった。

 師匠が『生かす為の力』だと言っていたのを思い出して、私は戸惑いを飲み込んだ。顔を横へ振って、キールの言葉に答える。

「格好よくなんてないっ」

 だって私は、知らなかったのだから。

「誰かを守る為に、誰かを傷つける。それがこんなにも苦しくて……痛いだなんて知らなかった」

 今の私に残っているのは、キールを守れた喜びよりも、男を傷つけてしまった罪悪感だ。

「兄様は、ずっとこんな思いをしていたのね。そうとも知らず、私は……」

 私の為にこの道を歩み続けたのだ。孤独と不安、後悔の渦の中で、何も知らずに笑う私を見て、彼は何を思っていたのだろうか。

 師匠は数歩進んだ後、顔だけ振り返り、口を開いた。
 

 

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