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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 6

   2017年8月15日  

 プラチナ仮面を追って、孤島の森に踏み込んだ合同捜査チーム一行。前世紀の遺構をステージに、オペラ「怪盗の末路」の幕が上がった! 辣腕捜査官たちと探偵の活躍はいかに?

 刺股さすまたが空を切り、注射針が閃く、空前絶後の逮捕劇!
 

 

於来之木島

 

 森の中の踏み跡はすぐに途切れた。倒木や滑りやすい腐葉土で足元が悪い中を難儀しながら、一行は3分ほどで目指す池にたどり着いた。

 池は奥行き15メートル程度のいびつな楕円形の輪郭をしており、照葉樹の森から水際までの狭い砂地によって取り囲まれている。水は淡水を保っていて透明度は高く、岸に立って眺めただけでも、かなりの深さまで見透かすことができた。ただし魚の姿は見えない。
 松崎警部が背後を振り向くと、歩き慣れぬ森をやっと抜けてきた神崎、真行寺の両名の顔が見えたところだった。警部は彼らに向かって右手で手招きし、早く来いと急かした。

「米軍さんからメールの返信はまだですか? 先生」

 神崎博士はノートPCの代わりに持ってきたタブレットを見て、首を横に振った。

「冷たいですな。我々のお手並み拝見ってわけですか」
「彼らも忙しいでしょう。どっちにしてもここだともう電波は届きませんよ」

 池の東側に聳える山の上空では、相変わらずいるかどうかも分からない怪盗に向かってヘリが投降を呼び掛けていた。

 ──プラチナ仮面容疑者に告ぐ。いっさいの抵抗は無駄である!

「やかましいな。もうやめさせてもらえませんか」

 松崎警部の注文を受けて、向井突入班長は無線のマイクを手に取った。ヘリのうち一機が海上へと去り、もう一機は捜査班の頭上に移動してきた。ホバリングの轟音が響き渡り、水面にさざ波が立った。
 潜水班が水中を捜索する準備をしていた矢先、松崎から少し離れた場所で、警視庁の刑事が水面を指差して叫んだ。

「係長! 人工物らしきものが」

 水深1メートルほどの池の底の斜面から四角いコンクリート塊が突き出ていて、その側面に、古びた金属製の回転式ハンドルが取り付けられていた。塗料はほとんど剥げて長年の錆びが元の形を変えてしまっており、本来の機能はとうに失われているようにも見える。

 向井警部が「私が行きましょう」と進み出た。地元県警として、現場管理の権限が委ねられていると判断したのであろう。躊躇する風もなく編上靴を水中に踏み入れ、円形ハンドルの前に歩み寄った。

 胸まで水に浸かった向井突入班長が力を込めると、ハンドルは意外にあっさりと左方向に回った。その直後、どこからともなく轟音が響き渡り、捜査陣の間に緊張が走った。

 見よ! 池の底が抜けたかのごとく、水嵩がたちどころに減っていくではないか! 向井警部の胸まであった水面は見る間に靴の下まで下がり、なおも遠ざかっていく。やがて、果たして水はどこから抜けたものか、池は完全に消失してただの湿った窪地が残った。その様子は、脱水後の巨大な洗濯機のようであった。松崎警部はとっさに周囲に注意を凝らしたが、不審な者が動いた気配はない。

 活躍の機を逸した潜水班の面々は、いったん着けてしまった装備を拍子抜けした様子で外し始めた。

 捜査員らは直ちに、空っぽの洗濯槽の随所に散った。くまなく捜索を続けるうち、一番深い位置から約2メートルの高さの粘土質の斜面に、これまたコンクリート製のU字溝を縦に置いたような構造物が見つかった。

 斜面に食い込んでいるU字溝は高さ2メートル、幅が1.5メートル程度と、ちょうど人体がすっぽりと収まるサイズだった。その窪みの中に入ってみると、……天井部分に鉄製の回転式ハッチが取り付けられている!

 捜査班の面々は、遂にプラチナ仮面のアジトに到達したことを確信した。米軍様の足元に身を投げ出し、これ以上のお情けにすがる屈辱は何とか回避できたのだ!
 

 

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