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ショート・ショート

美しき人

   2017年8月18日  

 サラリーマンの友則は、会社からの帰り道、電車に揺られていた。
 途中の駅から、とても美しくスタイルの良い清楚な女性が乗り込んできた。
 友則の降りる駅で彼女も降りたのだが、一人の中年男性が、彼女に「一杯だけでいいから付き合ってくれ」と懇願しているのに遭遇する。
 見るに見かねた友則は、彼女を姉だと嘘をついてその場から連れ出したのであったが・・・。

 

 時計を見ると、午後時45分だった。
 定刻に電車はM駅のホームへと入ってきた。
 帰宅ラッシュは過ぎていたが、程々に混雑していた。
 林田友則は列の最後尾に並び、電車が止まるのを待っていた。
 電車が止まり、中から蜘蛛の子を散らすように、たくさんの乗客が降りて来た。
 M駅は降りる人の数も多いが、乗る人の数も非常に多い。

 27歳になる友則は、大学卒業後の4年間、これをほぼ毎日繰り返している。
 大学卒業後に、どうにか入れた文房具を扱う会社の営業マンになり、今に至っている。

 電車は、程々混んではいるものの、座れる席は直ぐに確保出来た。
 友則の住むアパートは、この駅から3つ先で、駅からも、歩いて10分程の距離にある。

「次はK駅、K駅でございます。」
 と言う、電車特有のアナウンスが流れた。
 毎回K駅で乗り込む客は殆ど居ないのだが、今日に限っては、一人だけ女性が乗り込んで来た。
 スラリとした色白の美人で、艶やかなストレートの黒髪は、腰くらいまで伸びていた。
 膝丈の淡い水色のワンピースが、その黒髪をより一層引き立てていた。

 電車のドアが閉まり、女性はドア側の手すりに、凭れかかるように立っていた。
 普通に見ても、かなりの美人だ。車内に居た男性の乗客の殆どが、ちらりと彼女の方に目線を向けたが、誰も一瞬見ただけで、直ぐ下を向いた。
 それは『女性に失礼の無いように』と言う心配りと、変に誤解されない為の行為でもあった。

 電車は通常通り運行し、友則の降りる駅へと到着した。
 このH駅では、いつもかなりの人が降りる。
 それは、この駅周辺が住宅街であることと関係しているようだった。
 黒髪の女性もこの駅で降りるらしく、押し出されるように、多くの乗客に紛れて見えなくなった。
 友則は少しがっかりしたような、少し変な気分であった。
 それは、あの黒髪の女性と何らかのきっかけで知り合いになれたら…等と、甘い夢を見ていたからだ。
 当たり前の話だが、そんな虫のいい話が現実になるほど、世の中そう甘くは無いと言うことだ。

 ホームからエスカレーターで改札口まで登って来ると、何やら騒がしい様で、人々は遠巻きに見ながら、そそくさと知らぬ顔をして改札を出て行く。
 友則はその騒ぎの方向へと視線を向けた。
 騒ぎの渦中に居たのは、さっきの黒髪の女性と、50歳位の中年の男性だった。

 

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