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アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第26話「消えない思い出と消せない日々」

   

エリザの思いは何があっても真っ直ぐに、別れた兄へと向けられている。

「兄様にもこんな穏やかな日々があることを教えてあげたいの」

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編』
【毎週更新】

第26話「消えない思い出と消せない日々」

 

 
 私と男の様子、そして師匠の言葉を聞き、あの場にいた島民のほとんどが私の正体に気づいたはずだ。スウェナ達を問い質す者もいただろう。今の今まで気を失っていたせいで、その後のことが何もわからないが。

「スウェナさん、ごめんなさい。迷惑をかけてしまって……」
「そんなことないわ」
「あの後、どうなったんですか?」
「…………」

 私が小さくそう尋ねると、彼女は言いずらそうに黙り込んでしまった。私は服の裾を握り締めて、笑顔を作る。

「島の皆に知られてしまったんですね?」
「……はい、そのようです」

 スウェナは口調を変えて、目を伏せた。私は彼女の背に手を添える。
 ナナやマーロンも私の正体を知ったことだろう。ここへ乗り込んでくる者がいてもおかしくはない。

「スウェナさん、顔を上げて」
「申し訳ありません、姫様」
「やめて下さい。お願いですから……」

 この島で目を覚ました時から、覚悟はしていたことだ。それについて彼女が謝るべき理由はどこにもない。

「エリザちゃんは私達の家族よ。何があってもそれは絶対に変わらない」
「スウェナさん……」
「この島にいる限りは守ってみせるわ。でも……行っちゃうんでしょう?
「……!!」

 スウェナは私を抱き締めて、そう言った。
 彼女には、この島を出る意思をまだ伝えていなかった。引き延ばせば引き延ばすほど、言いづらくなるのはわかっていたのだが、上手くいかなかったのだ。だが、彼女もそんな私の態度を見て、薄々勘づいていたのだろう。

「私が王女だと知られてしまった以上、もうここにはいられません」
「そんなことないわ! きっと、皆わかってくれる……!」
「島民のほとんどが亡国の出身だと聞きました。私がここにいて気分のいい者などいないはずです」
「エリザちゃん……」
「いいんです。どのみち、後数日足らずでアグランドを出るつもりでいましたから」

 これ以上、島民の心を傷つけるわけにはいかない。彼等から故郷を奪うきっかけを作ってしまったのは、私達王族なのだから。

「こんな形であなたと離れたくないわ」
「私も師匠や皆とこの島にいたいです。ここはあまりにも穏やかで、優しすぎるから」
「なら……!」
、私は行きます。兄様にもこんな穏やかな日々があることを教えてあげたいの」

 彼はシアンを使い、この島へ私を匿うつもりだった。だが、彼だって一度くらい考えたことがあるはずだ。私と共に生き延びる道を。選びたかったはずだ。そんな未来を――――。
 

 

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