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家元 第八部 心の継承

   

昭和49年1月、京都は静かなお正月を迎えていた。

寸暇を惜しんで稽古に励んだおかげで、琴乃は4年のブランクを克服し、師範代に推薦されるのも時間の問題になっていた。

そんな時、とんでもない事件が起きてしまった。志乃の孫、和義が夜間にディスコ周辺を歩いていたと補導されてしまった。

「高校はどうなる?」、「次の家元には約束通りなれるかしら?」、パニックになってそんなことを口にする母の佳代子に、娘の真紀子は訴えた。

「和義にお母さんの夢を押しつけるのは止めて欲しい。」

そして、「本当に踊りが好きなのは誰なの?おばあちゃんの踊りの気持ちを受け継ぐのは誰?」と迫ったが、佳代子は答えられない。
 

「どんなに苦しいことがあっても乗り越えてきた琴乃おばさんこそ、次の家元にふさわしい。」

真紀子のこの言葉は佳代子の胸に強く突き刺さった。

 

 
真紀子と琴乃
 

昭和49年1月、京都は静かなお正月を迎えていた。

「おかあちゃん、明けましておめでとうございます。」
「琴乃ちゃん、おめでとう。」
「今年もよろしくお願いします。」
「こちらこそ。」

寸暇を惜しんで稽古に励んだお蔭で、琴乃は4年のブランクを克服し、かつての優雅で華やかな動きを取り戻し、それに加え、「あれは苑田ではない」と言われた彼女の欠点、大き過ぎる動きもなくなっていた。

「頑張りなはれ、もう少しやで。」
「はい。」

志乃は今年で満67歳になる。

昨年7月に起きた分裂騒動とその収拾、11月には夫の圭介の手術、自宅療養と続き、体を休める暇もなかった。

幼い頃から目標としている2歳年上の井上流四世家元 四代目井上八千代は健在である。まだまだ頑張らねばならないが、そろそろ信頼のおける者に本部教室の稽古を任せたいと考えていた。

琴乃を追放した古参の師範代たちが引退した今、幹部会で師範代に推薦しても反対する者はいない。期は熟したと志乃は思った。

お正月に稽古に通って来る者など、琴乃の他にはいないが、今日は孫の真紀子が来ている。

「琴乃おばさん、おめでとう。」
「真紀子ちゃん、おめでとう。一緒にお稽古せえへんか?」
「え、うちが?」
「音に合わせて楽しく踊る、バレエと同じよ。」
 

 

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