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ラブストーリー

犬が取り持つ恋もある 3

   

伸樹と付き合うことになった佐和子は、ある日、迎えに行くといわれて、凄く喜んだ。それを素直に表情に浮かべる。
そんな日に、突然鎌田が学校へ来ていて、佐和子に話があると呼び止めた。
だが、伸樹が待っているのにと、それをかわそうとするが、離してくれず・・・。

 

 伸樹さんと付き合う事になって、変わった事が一つある。
 朝の目覚めが早くなった。そして、低血圧によくみられる、ボーっとした感じもなくスッキリだ。いつもなら、まさに低血圧状態なのだ。

「行ってくる」

 いつもの時間より早く、玄関を飛び出して向かった先は吉井家。そしてチャイムを鳴らせば、響く低音の声が聞こえてくる。

「わぉんっ!」
「お早う御座います!」

 ドアに向かって声を掛けると、伸樹さんのお父さんがドアを少し開けてくれて、その隙間でニヤニヤと笑っている。最近は、この笑顔にも慣れた。
 伸樹さんと付き合って二日後くらいに、ゴンが会えなくて淋しがってると聞かされた。
 確かに、あれから部活も出ていなかったから、夜の散歩の時間に会う事もなく、ゴンの姿は見ていなかった。
 ゴンに会う為に、朝の時間を早くして、少しだけ構ってあげる事にしたのだ。
 そうして、翌日チャイムを鳴らして出てきたのはおじさんで、アタシを見るなり意味深に笑った。
 そして言われた一言が、『捨てないでやってくれな』だった。
 その時は思わず笑ってしまったが、毎朝、ニヤニヤしながら出てくる顔には、いい加減慣れてしまった。きっとおじさんは、冷やかしのような顔をして、アタシが恥ずかしがるのを待っているのだろう。
 申し訳ないが、そんな事では恥ずかしがる事もないから、いい加減普通に出てきて欲しいものだ。

「佐和、ほっといていいからな、親父は」

 奥から顔をタオルで拭きながら出てきた伸樹さんに、アタシは笑いながら指で丸を作る。

「ほっとけはないだろ」

 いじけたような顔をしてから、少しだけ開けていたドアを全開にすると、直ぐに飛びついてきたゴン。ずっと、隙間からアタシを伺っていたのだ。
 開けてもらって、ようやくアタシに前足を上げて立ち上がる。室内で飼っているから、制服も汚れる事がない。
 ゴンを抱き締めてから、足を下ろしてやって、頭を撫でていると、おじさんを退かせて伸樹さんがゴンの横に立った。

「俺、今日有給だから。帰り迎えに行ってやるよ。何時?終わるの」

 迎えに来てくれると聞いて、これでもかという位に顔が緩んだ。
 すごく嬉しくて。
 3時半ごろ終わると告げてから、アタシは玄関を離れた。

「頑張れよ、高校生」
「行ってきます」

 手を上げてアタシは学校へと歩き出した。
 歩いていても、緩んだ顔は中々戻らなくて、長い息を吐いてから空を見上げた。
 白い息が空に舞って、また次の息が消えていく。
 こんなに笑っているのも、久しぶりじゃないかと思う。
 初めから、笑顔も泣き顔も晒してしまった所為だろうか、伸樹さんに顔を作る事はなかった。
 思った事を思ったままに表情に出すのって、楽なんだなって思った。
 登校しながら、帰りが楽しみだと、また緩みそうになった顔を何とか堪えていた。

 

-ラブストーリー


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