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透明の世界 8話「主に奇伝のキスを」

   

第8話「主に奇伝のキスを」

――――時は明治。謎の令嬢と少年のような男による怪異伝。

 

 
『黒い人』――――?」

 私は口に含んだ紅茶を飲み干してから、少年――――いや、一見してまだ子供だが、れっきとした男である彼に、そう聞き返した。

 おかっぱ頭に眼帯、そして少女のような顔立ち。見るからに胡散臭い少年を前にして、私は訝しげに眉を寄せた。着物の着方も知らないのか、と思わず説教をしたくなるほど、独特の服の着方をしている男に呆れた視線を向ける。

「それが最近巷に出回っている噂ですか?」
「はい、お嬢様」
「……その呼び方は改めてほしいとお願いしたはずですよ、あさひ
「失礼致しました。祭呂さいろ様」

 目を伏せたまま、無表情でいる旭を私は咳払いをして見つめた。
 林道りんどう旭は、私をお嬢様と呼びたがる。私自身、そう呼ばれてもおかしくはない立場ではあるのだが、彼からそう呼ばれる度に妙な苛立ちを覚えてしまう為、普段は名前で呼ばせている。

「黒い人。似たような事件は聞いたことがあるけれど……どこか信じがたいわね」
が直に確認しましたので、確かかと」

 相変わらずの無表情で、旭は平然と言い放った。私は空になったカップに紅茶を注ぎ、彼を睨む。

「そうでしたか」
「ええ」
「また見て見ぬ振りをしたのですか?
「ええ、その通りです」

 予想通りの答えに、私は彼を睨むのをやめた。
 この男はいつもそうだ。助けられる人間を見ても、見ない振りをする。そして、そのことを何とも思っていない。彼は人の死を間近に捉えても、表情を崩すことはないのだから。たとえ、それがであっても――――。

「どうかなさいましたか? 祭呂様」
「いいえ、何でもありません」

 先程、旭から報告を受けた『黒い人』とは、今、町中で騒がれている怪談で、怪異の一種とされている。現れる時間は決まっておらず、契機は『大切な者へ宛てた手紙』を届けに行くことだと言う。

「想い人へ手紙を届けようとした女学生が、この怪異の最初の被害者でしたね」
「はい。なんでも、影のようの揺らめき、滴を垂らして追ってくるそうですよ」

 面白そうに言ってはいるが、口が笑っていない。

「被害が出ている以上、ただの怪談では済まされないわ。旭、その怪異が黒い人だという証拠は?」
「ご覧になりたいのですか?」
「はい」

 人へ人へと話が伝わる度に、名前が変わった可能性もある。旭の目撃証言だけでは、私は動けない。
 すると旭は、鞄の中から包みを取り出して、テーブルに置いた。そして、布を取り去りながら私に言う。
 

 

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