幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

ブレークシステム

   

人気漫画家藤田 誠一はその人気と売り上げの高さによって、ずっと増長していた。気に食わないアシスタントはすぐクビにするし、直言する編集者には作品打ち切りという反撃を見せる。

果ては自作品のアニメ化の際に、好きな女の子を主演級にゴリ押していくなど完全にやりたい放題だった。

根本的には欲求を満たしたいわけではなく、純粋に権力を振るいたいからやっていることであるため、どうにも手がつけられないのが実情だった。全てを台無しにするため「ブレークシステム」と陰口を叩かれているが気にする様子はない。

藤田は、秘密裏に仕入れたアイディアを流用して、あるオンラインコミック誌に作品を投稿するのだったが……

 

「なんだっ、散々言っておいたのに、まだこれしか仕上がってねえのか。釣りを途中で切り上げた意味がねえよなあ、おい。どうなってんだよ」
 藤田 誠一のねちっこい怒声が室内に響き渡ると、若者たちはびくりと首をすくめた。
 まだ二十代前半で怒鳴られ慣れていない彼らには、さほど大柄でもない藤田の嫌味も強烈に効いてくる。
 特に、先月からチーフ・アシを任されるようになった倉井は、誰よりも責任を痛感せねばならない関係からか、指先どころか全身を小刻みに震わせてしまっている。
「すっ、すみません、先生。ゼーコフ出版の西沢さんの方から、あの最終回の54ページ目をどうしても、と言われてしまいまして。ペン入れと着色作業に忙殺されてしまいまして……」
 倉井は反射的に真実を述べたが、全て責任を被るような潔さは発揮できようもなかった。
 もしそんなことをしたら、自分の職が危うくなることを彼は知っていた。
 藤田はデビュー間近の弟子を原稿ごと部屋から叩き出すことなど何のためらいもなくやれる男だし、三つの競合する少年誌で看板を張っている藤田 誠一のアシになりたい漫画家志望は山のようにいる。
 せっかく空いた席にどうにか滑り込み、ここまで上ってきたのに、一からやり直しなど考えただけでもあり得ない話だった。
「西沢だと!?」
 藤田は目を見開いていっそう大きく怒鳴り声を飛ばした。
 ひいいっと倉井が悲鳴を上げるのにも構わず藤田は机を蹴飛ばした。
「あの野郎にそこまで言われて、貴重な時間を黙って潰したってのか、てめえら! 五流以下の出版社風情がよ、この藤田 誠一の原稿を載せてやれるってだけでも大満足な連中だろう。誰の人気で雑誌が保っていると思ってやがるんだ! 甘く見られたもんだなっ。おい、倉井。電話しろっ。今からすぐ電話して、こう言ってやれ。『てめえで彩色しろ』ってな。あの会社は確か印刷もやってたから、機材は揃ってるんだろうしな」
 藤田から予備のスマホを投げつけられた倉井は、いよいよ泣きそうな顔になった。
 だが、指を動かそうとはしない。室内の誰もが口を閉ざし、倉井の方を見ている。遠くから流れてくるラジオの音が、いやに明瞭に響いてきた。
「おい、倉井。てめえ、俺の言うことが……」
「おっ、お言葉ですが、もう無理ですよ。ろくにトーンも貼らず彩色もせずに商品と言うのは。僕らが小学校の頃は確かに、そうでした。漫画雑誌、漫画本と言えば白黒でした。しかし今はネットがあります。ネットで動画もアニメも観れます。どんな初心者でもソフトを揃えれば即、フルカラーで絵が描ける。なのに先生があの原稿では……」
 倉井の言葉は仕事上のレベルを超えているようだった。
 実際、藤田のアシとして名が知れてきている以上、その原稿の完成度は自分の評判も左右する。
 デビュー前から傷をつけられてしまったらどうなる、という思いが、彼の表情から見て取れた。

 

-ノンジャンル
-, ,


コメントを残す

おすすめ作品

怪盗プラチナ仮面 11

   2017/09/20

見習い探偵と呼ばないで!【番外編・御影解宗のデート】2

   2017/09/20

ロボット育児日記25

   2017/09/19

モモヨ文具店 開店中<33> ~日付スタンプを使っての琉華の覚え書き~

   2017/09/15

ロボット育児日記24

   2017/09/14