幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

家元 第九部 継承に向けて

   

昭和53年(1978)、38歳になった琴乃に恋人が出来た。お世話になった料理屋「小寿々」の板前、正岡達夫だ。3歳年上の不器用な男だが、琴乃を理解し、支えてくれる男だった。

そして、迎えた結婚式。10年前に故郷の若狭で挙げた式とは違いささやかなものだったが、祝福と喜びに満ちた式だった。

幸せを掴んだ琴乃は、翌年、志乃の本部教室を受け継ぐことになった。それは「次の家元は琴乃」を意味するものだった。
昭和58年(1983)、琴乃もお世話になった志乃の夫、圭介が亡くなった。失意に沈む志乃を励ましたのは、孫娘の真紀子だった。

「泣き言を言っていたら、琴乃おばさんに笑われるわよ。」

その言葉に元気を取り戻した志乃は再び稽古場に立ったが、そこに更なる問題が発覚した。対応を誤ると苑田が消滅するものだった・・

 

 
新しい時代の幕開け
 

「えらくにぎやかな曲やね。」
「はあ、これか。『勝手にシンドバッド』って言うんよ。」
「うちには早すぎて、よう分かれへん。」
「へえ、琴乃おばさんでもついていかれないんか?」
「ふふふ、もう若くないから。」

昭和53年(1978)7月、琴乃は38歳、真紀子は大学4年生になっていた。

「真紀子ちゃん、就職はどないするん?」
「うちは・・迷っとるん・・」

  ピンポン、ピンポン・・

「あ、はい、今、開けます・・」

琴乃が立ち上がってドアを開けた。

「お客さんか?」
「大丈夫や。」
「これ、夕方のおかずに。」
「ありがと。」
「またな。」
「はい。」
琴乃のアパートは2Kだから、訪ねてきた人の顔はよく見える。
ドアを閉めた琴乃が振り返ると、真紀子は「あれ?」っと笑っていたる。

「ははは・・そうなのか・・」
「な、何でもあらへん・・」

琴乃はあえて素知らぬ振りをしているが、受け取った包みを冷蔵庫に納めるその顔はとても嬉しそうだった。

「小寿々の板前さん?」
「知らへん・・」
「へえ、おばさんが恋してるのか、いいなあ・・」
「真紀子ちゃん、本当に何でもあらへんから、からかわんといて。」

必死に取り繕う琴乃の顔は赤くなっていた。

「ふふふ、おばさん、顔が赤いよ?」
「もう意地悪!」

 

-ノンジャンル
-, , ,


コメントを残す

おすすめ作品