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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 11

   

 真行寺内蔵介が「最後の手段」とする企業秘密。警視庁はそれを利用しようと動き始めた。

 プラチナ仮面逮捕のためならば、公権力は手段を選ばない。どうする名探偵?

 

 

真行寺探偵事務所(再)

 

 ブラインドのスラットを軽くずらして外を見る。街灯が照らし出す路上に、小生意気な口髭を生やした若い刑事の姿はない。真行寺内蔵介はジャケットの袖に手を通し、事務用椅子に放り出してあったショルダーバッグを肩に掛けた。その晩は錦糸町の喫茶店で青山夫人に会い、一週間遅れの調査報告をする予定が入っていた。

 事務所の時計は午後8時半になろうとしていた。助手の松平君は1時間前に帰宅し、アマデウスもいつになく早々と寝入って、事務所内は静まり返っていた。
 

 そして探偵が事務所を出ようと玄関のドアに手を掛けた瞬間、背後から卓上の電話が鳴った。探偵が舌打ちをして玄関口から引き返し、受話器を取る。嫌な予感の通り、探偵の耳には松崎警部の声が聞こえてきた。

「こんばんは、松崎です。今は忙しいですか?」
「ええ、忙しいです」
「そうですか。この後、9時半過ぎとかはどうだろう?」

 その声には遠慮というものが微塵も無かった。

 顧問契約の話を持ち込んだ時以来、松崎の横柄さはワンランクアップした感がある。公務ならばこちらの都合などどうにでも合わせられると思ってるんだろうか。せめて嫌味の一つでも返してやりたいと思ったが、探偵はこらえた。

「申し訳ないんですけどねえ。11時ならどうでしょう?」

 受話器の先では「11時ねえ……」などと言っている。お上のご都合が確認されている間、受話器を握る探偵は半ば無の境地で時計の秒針を目で追った。

「その時間は事務所にいるの?」
「多分いると思いますよ」
「じゃ、私が伺ってもよろしいかな?」
「警部さんがこちらへ?」
「うん……実はね、小耳に挟んだんだけど、あんたには大層な『奥の手』があるらしいじゃないの」
「奥の手? 何のことです」

 探偵はとぼけたのだが、松崎が何の話をしているのかは薄々感付いていた。

「冷たいなぁ。有名だよ? ここ一番って時の、あんたの奥の手ってやつ」
「いや、分かりませんけど」
「そう? 御子柴玲子さんっていう強力なアドバイザーのこと」

 探偵は思わず天を仰いだ。クソ。いったいどこから漏れたのか。お上だろうと何だろうと、この秘密には絶対触れさせないよう注意してきたのに。

 改めて時計を見ると、8時半を過ぎている。目の前の予定をすっぽかすわけにはいかない。探偵はやむなく「分かりました」と松崎に告げた。

「やっぱりプラチナ仮面の関係ですか」
「それ以外の何があります?」
「なるほど。私はすぐに出かけるんで、それじゃ事務所で23時に。ただ少し遅れるかもしれませんよ」
「構いません。こちらは何時まででもお待ちします。では後ほど」

 探偵は「ご苦労さまです」と言って受話器を置き、再び玄関に向かった。アマデウスは目を覚ます気配もなかった。

 「奥の手」とは、要するに「神頼み」である。
 

 

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