幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

家元 第十一部 様々な思い

   

「そんなことに泣いとる暇はないんよ。」

大木早苗の励ましを胸に、琴乃は様々なバッシングに堪えてきた。

その努力がようやく実を結ぶ時がやってきた。

「本部教室のお稽古を見習わんと。」

苑田流師範代はそれぞれの生徒を連れて琴乃の本部教室に出掛けてくるようになり、そこは〝苑田流総本山〟となった。

そして、昭和60年(1985)3月、ついに苑田流幹部会は琴乃が次の家元となることを満場一致で承認し、お披露目公演を9月に行うことが決まった。

準備期間は6ケ月。長く感じられたが、家元継承にかかる準備は目が回るほど忙しかった。

そんな中でも、琴乃には区切りをつけておかねばねらないことがあった。
故郷、若狭訪問である。

「何が起こるか分らんよ。」

様々な思いが交差し、志乃もリスクを指摘したが、苑田流普及には、足を踏み入れることができない地域があってはならない。強い決意を持って訪れた故郷は温かった。琴乃を追い出した網元一族も、琴乃を認めてくれた。

そして、9月の家元お披露目公演を前に、ゲスト演技は破門されていた高橋真由美を「名誉顧問」として迎え入れることと、ゲスト演技を行うこともきまった。

しかし、いまだに例のスキャンダラスな記事の犯人が分からない。

「身内の恨み」との情報が寄せられ、志乃の娘にも疑いがかかっていた・・・

 

 
時は来たり
 

「そんなことに泣いとる暇はないんよ。」

琴乃は大木早苗の励ましを胸に様々なバッシングに堪えてきたが、これら雑誌等の追い風もあって、苑田流の師範代の多くが琴乃を理解し、信頼を寄せてくれるようになった。

「本部教室のお稽古を見習わんと。」

毎月実施される教室間交流まで待てないと、師範代たちは生徒をつれて本部教室に出掛け、そこは文字通り〝苑田流総本山〟となった。そして、古くからの支援者に、地元財界の主要メンバーが加わり、新たに「苑田流後援会」が発足した。

本部教室を任されて6年、まさに時は来たれり。

昭和60年(1985)3月、苑田流幹部会で志乃から「準備を整えた上で、正岡琴乃はんに家元を譲りたい」と発表されると、出席した師範代全員が立ち上がり、拍手でそれを祝福してくれた。その中には顧問になっていた鏡佐知代もいた。それは、「琴乃はん、あんたに任せた」ということを意味していた。

そして、お披露目公演は半年後の9月に行われることも決まった。

「お前、よう頑張ったな。」
「あなた、ありがと。」

帰宅した琴乃を夫の達夫が迎えてくれた。料理屋「小寿々」の女将、京子は板場から〝追い返して〟くれていたのだ。

「まずはお父さん、お母さんに報告や。」

仏壇の前に正座し、手を併せると、苦しかったことも脳裏に浮かんではきたが、「琴乃、おめでとう」と両親が笑顔で祝ってくれたように感じた。
 

 

-ノンジャンル
-, , ,