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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】1

   

 氷室探偵事務所に一通の封書が届いた。

 手紙が二枚入っている。

 手紙でも依頼は受け付けていた。その内容に手にした小柴は驚愕だった。

 すぐさま名探偵氷室に相談する。

 依頼は、自分が殺されたという本人からの依頼だった。

 その怪依頼をどう解釈すればいいか。小柴は困惑した。

 名探偵氷室は、その手紙の内容だけで事件のあらましを解く。そして、その担当探偵を御影に命じたのだ。

 探偵として出立する御影。その期待をおおきくもっている氷室は、新たに雇った事務員の輪都を助手として組ませる。
 
 

 探偵として依頼らしい依頼を任されたが、どこか熱意が冷めている御影だった。

 そんな御影の探偵としての眼も、枯渇していた。

 

 一通の封書が探偵事務所に届いた。

 小柴は仕事の依頼かもしれないと封書の上部をペーパーカッターで切る。依頼を封書でも受け付けていたため、事務員は慎重に中身を確認することに気を配る。

 中には手紙が二枚はいっていた。

 一枚目の書き出しに、小柴の目は驚きに染まった。

 わたし、染野 美幸は、姉の夫である京介に殺されました。命、鼓動、体温、血流の抜けたわたしの渇いたからだをみつけて埋葬してほしいのです。お願いします。このまま非業の死を、だれにもしられずにいるのは死してなお苦痛でなりません。お願い申し上げます。わたしの肉体を救ってください。依頼料などはそちらから請求してください。いくらでもお支払い致します。

 と記されていた。

 小柴は自分のデスクの椅子にすわったままの状態で蒼白顔で固まっていた。

「たいへん、氷室さんに相談しないと…」やっと声がでて席を立った。

 殺人事件の事後調査依頼。当の本人は殺されて、なおかつその本人から調査依頼がきている。

 この怪依頼をどう解釈すればいいか。いちばんの気掛かりは報酬だ。誰が払ってくれるのか。いくらでも支払うというが、結局のところタダ働きになったりしないだろうか。

 小柴は経理もこなすマルチな事務員だ。特に経費にはうるさい。無駄なことは自腹にさせる。缶コーヒー一本を経費で買おうものなら、小柴はそれについて言及する。

 当探偵事務所代表の氷室であっても理由事由を聴取して堅実に自分の仕事をまっとうする、それが小柴 ナナ子だ。
 
 

 新宿に探偵事務所をかまえる代表、氷室 鉄矢 (ヒムロテツヤ)、36歳は、問題解決100%の鉄壁を誇る日本屈指の名探偵、マスコミや雑誌、テレビ番組に頻繁に顔をだしている。

 頭脳明晰、優れた分析力、博識、巧みな話術で相手を追い詰める。そして多額の報酬を得る。

 名探偵としての功績から警察から特別門外顧問として捜査協力を依頼されることが頻繁であった。

 現在も警察からの依頼で別件調査対応中だった。興味ある依頼内容だが、手が回らない。

「不謹慎ながら」氷室は重厚なデスクで小柴と対面した。「この案件はおもしろいねぇー、ぜひ名探偵である私が担当したところだが重要な別件がはいっている」

「ええ、そうですね。ことわりますか?」フレームのないめがねをくいっと指先で小柴は位置をなおした。

「いや、どうせならぁ」もったいぶるように長音が声からでている。ビシッときめこんでいるダブルのスーツに派手なネクタイをしている。そしてトレードマークのハットがポールハンガーにかかっている。

「…あいつにやってもらおう」

「ですが…」小柴の声がちいさくなった。「殺されたのは、“染野 美幸”本人だと記されています。いたずらとも考えられます」

 氷室は少しうなりながら窓から見える新宿駅前のロータリーを見つめている。その瞳の輝き、そしてあごに右手の親指と人指し指のさきをあてる。その頭脳はネットワークという高速道路をめざましく走り続けている。

 そこから導きだされた独自のシナリオ。それを小柴に話す。

「おそらく、依頼人の美幸という名を別人がなりすまして送ってきたかもしれない。報酬に関しては支払う金があるならお互いに押し問答することもあるまい。そういう素性を知られないための手段で依頼してくる人はいつものこと。そこまで問い詰めるひつようはない。が、なんらかの事情はあるようだ。このあて先をみたまえ…」

 小柴はあて先に視点を移すが、それがどうしたのかわからない。

 二三秒で小柴が答えるまえに考える間を与えず氷室が言った。「あて先の消印は群馬県の郵便局のものだ。手紙の住所は長野県、送り主の染野美幸とはまったくの別人と推測が立つ。バレては困るなにかがあるのだろう。身内か、知人か…秘密裏に動いている。その送り主は単独なのかもしれない。だから亡くなったという“染野美幸”という人物をあえて記すことで、これを送ってきた者がだれかわからないようにしている。そして、その名を記すことで送った相手を詮索できないようにしているのがうかがえる…。それはなぜか、染野美幸を殺したという犯人は、この手紙の送り主の身近にいる人物であると示唆できるからだ」

 小柴は関心するようにうなずく。この手紙だけで犯人の特定を絞り込んだ。

「まだまだ、この手紙には、なんらかの暗号が隠れているかもしれないな。関係者の筆跡を調べたらすぐにあぶりだせそうだが」

 氷室はそう読み解きながら、小柴に向かってニヤリと笑った。小柴は目を見開いて頭脳明晰が伊達ではないことを思い知らされた。

「とりあえず御影くんをよんでくれ」

 小柴は御影では荷が重いような気がすると思っていた。代表の命とあれば従わずにはいられないが責任のすべては名指しした氷室自身にある。

「わかりました」

 

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