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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

怪盗プラチナ仮面 12

   

「お前はいい筋を持って生まれた」──。

 占い師が推薦した下平瑞希は、郵便局に勤める28歳の平凡な主婦。

 少女時代の異様な体験は忘れたいとさえ思っていたが、警視庁はそんな彼女に協力を求めてきた。

 

 

松本市内・某郵便局

 

「本っ当に若くて綺麗な子」──。
 

 御子柴玲子が松崎警部にそう断言した下平瑞希は、当年28歳で既に結婚しており、男の子が一人いた。確かに、63歳の占い師と比較すれば十分に若い。しかし、外見はパッとしない平凡な主婦である。

 「本っ当に若くて綺麗な」などと、無闇に期待を煽って良いものであろうか?
 

 それはさておき、瑞希は3人兄妹の末っ子として生まれた。父は市職員、母は専業主婦という平凡な家庭の平凡な末娘として、小学校低学年まで育ってきた。

 9歳の時、いつになく硬い表情の両親に付き添われて、下平の本家を初めて訪れた。市の郊外に豪邸を構え、田畑や山林など広大な地所を有する本家は、子供心にも近寄りがたい場所だという漠然とした知識を持ってはいた。しかしそこへ自分が連れられて行くのはどういう意味を持つか、知らされていたわけではない。

 いかめしい屋根付きの門の扉を父が開けると、石畳のはるか先に、鈍色の瓦屋根を載せる純日本風の豪壮な母屋が威容を誇っていた。父は母屋から目を背けるようにして瑞希の手を引き、石畳の道から逸れて屋敷の裏手へと向かっていく。母は何も言わず後ろに付き従った。
 

 母屋の裏手は、奥の山へと続く森に繋がっていた。樹々に覆われた斜面に、薄暗い石段が山の奥へ伸びているのが垣間見え、父に手を引かれてそちらに向かうのがたまらなく恐ろしく感じられた。

 どこまでも続く急な石段を、子供の足で一つ一つ上がるのはとても難儀だったことを瑞希は覚えている。ようやく登りきって、花崗岩を敷き詰めた石畳の先へ進んでいくと、廃屋のようにも見える板葺き屋根の御堂が、暗がりの中へ溶け込むように鎮座していた。

 ここで何かが始まる。子供心にそう直感した。

 両親に付き添われていたのはそこまで。一人で御堂の座敷に上がった。そして何も分からぬまま、白地に赤い縫い取りのある衣装を着せられて奥の部屋へ通された。

 そこで何が起きたのか、その直後の瑞希は覚えていない。意識が戻った時には風呂場にいて、屈強な男衆に囲まれ頭から湯を浴びせられていた。

 想像していただきたい。風呂場に正座させられた9歳の少女を褌一丁の男たちが取り囲み、木桶でかわるがわる湯を浴びせているのである。閉鎖された密儀の空間では、このような社会通念を逸脱した光景がしばしば出現する。そしてそれらの行為が記号としていかなる意味を持つか、まったく不明なケースも多い。とにかく言語化されざる共同体の紐帯というものは、良かれ悪しかれこうして補強され伝えられていくらしいのだ。
 

 1年後、瑞希は再び本家に呼ばれた。今度は当主立ち合いの下で、大叔母に当たる人から祝詞と所作事を丸一日掛かりで指導された。翌日、奥の御堂で見覚えのある衣装を着せられ、祝詞を唱え舞っているうちに、前年に何が行われたかを少しずつ思い出した。

 榊を振り回しながら意識は遠のいていき、自分が自分でなくなっていくのを、この時ははっきりと意識した。終わってから、自分はそういう役割を継がされたのだと知った。
 

 

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