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某国造幣省の部長、ヒドン・レザガは、部下たちに給料の現物支給を開始すると説明した。

宝石を配布するという原始的な形だが、造幣装置が盗難され大量にコピーされてしまったので、電子マネー網を築くまでの代わりとして現物支給が必要だった、とレザガは切り出した。

研究員たちはこれを快諾しただけでなく、今までストックしていた論文の数々を個人的にレザガに販売することに。

暗号化された論文が格安で手に入るということでレザガとその部下たちは私財を投じて引き取ったが、レザガとしては出費という意識はなかった。その理由とは……

 

「……、と、言うわけなんだ。研究員諸君。我々とすればどうしようもなく情けない話だが、でなければ今や金を支払ったことにはならないんだ」
 某国の中枢にある国立研究所。新式のマン・ピューター(人間的電子装置)とは比べ物にならないぐらい素朴なパソコンを忙しく操る部下たちを前に、ヒドン・レザガは声を発した。
 直属の職員たちが脇を固め、彼らは巨大な袋に満載された宝石類を小分けにしている。
 ルビーにサファイア、そしてトパーズやダイヤ……、いずれも宝石の知識がない人が見ても一級品だと分かる代物だ。
 カットも完璧で、どこの宝飾店に置かれても違和感がないほどの完成度を誇っている。
「何かあったんでしょうか、中佐殿」
 研究員の中でも年かさで落ち着いた雰囲気を持った男性はにこりともせず応じた。
「ははは、中佐殿はやめてくれよ。ナガロ君。もう二十年も前だよ、軍隊にいたのは」
 一方のレザガは、人懐っこい笑みを浮かべて、太鼓のように柔らかく張った自らの腹をぽおん、と叩いてから続けた。
「まあ、ありがちな話だよ。私も造幣にいるから分かるけどね、今やどの国も貨幣や紙幣を作る技術がある。つまり、専用のマシーンを皆持っていて、機会があればコインや紙幣を刷って財政を良くすることもできる。要するに、どこでも金は刷れる。そして、数百も国がある以上、戦争や内乱で潰される国も出てくる。勝てば官軍、というわけじゃないが、モノである限り勝者が持ち出すのは簡単だ。それがたとえ、造幣機であったとしてもね」
「道理ですな」
「そうだな、ナガロ君。当然の話だ。そして、盗まれた造幣機は、完全に世界最高水準だったんだよ。クロゼ共和国は財政難を脱却するため、海外との関係を強化するために通貨の受注制作を試みていたからね。もっとも、足元に無関心だったので、反乱軍にやられてしまったが」
 レザガはいかにも悲しそうな表情を作ってみせたが、それが本気ではないことは容易に見て取れる。
 芝居がかった話し方や態度は、彼にとって切っても切れないものだった。
「当座のお金に悩む反乱軍は、造幣機を大量生産して売り出した。極秘裡に各国の贋金を作ろうとした一派を止めるための動きでもあったようだが、ま、結果は同じだよ。今や全ての国が即座に、この世に現存するほぼ全ての通貨を作る手段を掌中に収めた。中には国家ではない組織やゲリラまで含まれているようだ。もちろん、購入した全ての国が節度を持って扱ってくれることは期待できないな」
 レザガがここまで言うと、研究員たちの表情に緊張が走った。
 普段は貨幣や紙幣の研究には縁がなく、もっと言えば口座からずっとお金を引き出してもいない者も少なくないぐらいだが、彼らは一応、造幣省の下部組織の関連団体としての籍を与えられている。
 造幣に近ければ近いほど権力の椅子が近くなる、といった現実的な判断からだが、穏やかな話でないことは間違いなかった。

 

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